ウソにウソを重ねるTPP交渉

2016年07月20日

弁護士 杉島 幸生

1 ウソをつかない TPP断固反対 ぶれない

これは自民党の選挙ポスターに掲げられたスローガンです。ただし2012年衆議院選挙のときのものですが…。当時はまだ民主党政権。野田首相のTPP交渉参加表明に対抗するために安倍自民党は、「TPP断固反対」を公約に掲げたのです。ところが選挙で多数派をとるや、手のひら返して遮二無二TPP推進に突っ走ってきました。このようにTPP交渉は、国民へのウソで始まったのです。

2 守られなかった聖域5分野

TPPで、日本の食糧自給率が大きく減少するだろうことは、政府試算からも明らかでした。そのため安倍内閣は、聖域五分野(コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、サトウキビなどの甘味資源作物)だけは死守する、そうでなければ撤退すると繰り返し公言していました。安倍内閣は、関税が残ったから5分野は守られたなどと言っています。しかし、TPPは締結時の協議だけで内容が確定するものではありません。数年ごとに再協議が行われることとなっており、聖域5品目も例外ではありません。実際には、「当面は」関税が残ることになったというだけのことでしかありません。これではとても守ったなどと言えるようなものではありません。

3 国民の利益をそこなうISD条項

TPPには投資と金融の章に、TPP条約に違反する政府(これには裁判所の判決も含まれます)の行為で投資家に損害が生じたときには国際仲裁所という民間機関に損害賠償を求めて申立ができるという条項(ISD条項)があります。例えば、あらたな環境条例が厳しすぎて、新工場の操業が続けられなくなった、審査基準が厳しすぎて成長ホルモンを使って育てた牛肉が販売できず損失がでた、地域経済のため公共事業を受注する際には地元企業を優先したい、学校給食に地元食材を使いたい、などなど、政府や自治体が住民のためにつくった法律や条例が多国籍企業の利益と衝突すれば、損害賠償の脅しのもとで、そうした制度の改廃を求められることになります。国民主権・住民自治より多国籍企業の利益が優先されるISD条項は、そうした事態を引き起こします。安倍内閣は、すでに多くの経済協定にISD条項が含まれているが、そうした問題は起きていないから大丈夫などと言っています。しかし、これまでアメリカのような先進国との間でISD条項つきの経済協定を締結したことはありません。また現在、EUとアメリカは経済協定締結に向けた協議を続けていますが、EUはISD条項には絶対反対の立場を維持し続けています。なんの警戒心ももたず、国民の利益を多国籍企業に売り渡すISD条項付きのTPPを締結する安倍内閣は、本当に「売国奴」だと思います。

4 永遠につづく経済の自由化

先ほど述べたようにTPPは締結したら終わりというものではありません。多くの交渉分野で、数年ごとに再協議することが義務づけられています。そして、そのときの議題は、どこまで経済の自由化が進んだのか、これからどのように自由化を進めていくのかということでしかなく、市民生活の質の向上のために、多国籍企業の活動をいかに制約するのかということはそもそも議題にあがりません。しかも、その議論は、国民に隠された密室のなかで、各国の経済官僚によって進められます。私たちの生活に密接に関わることについて、私たちがおよそ関与できないところで協議・決定されていく、それが永遠に続けられていくのがTPPの仕組みなのです(例えば、労働組合共済制度の見直しなども早晩、議題になるだろうと言われています)。

5 批准を急ぐ理由はどこにもない

日本とアメリカで、TPP交渉参加国全GDPの80%を超えています。TPPの実質は、日米自由貿易協定にほかなりません、ところがアメリカ国内では、TPPがアメリカ国民の生活と経済を破壊するのではないかとの懸念が広がり、クリントン、トランプという両大統領候補もTPP再協議を公約としています。日本だけがあわててTPP条約を批准しなければならない理由はどこにもありません。