民主法律時報

許せぬ秘密保護法の強行採決――その背景にあるのは日米軍事情報保護協定

弁護士 橋 本   敦

1 強行採決の暴挙と高まる国民の怒り
 安倍政権は、圧倒的多数の国民の反対の声を押し切って、2013年12月6日の深夜、特定秘密保護法を採決を強行した。
 我々はこの暴挙に心の底からの抗議を表明する。
 特定秘密保護法が国民の「知る権利」を奪い、国民の目と耳と口を覆って「戦争する国づくり」をすすめる憲法違反の悪法である。
 政府は「何が秘密か。それは秘密である。」とうそぶき、一方的に、国会にもかけずに防衛庁長官などの政府官僚が、本来なら主権者たる国民が知る権利がある何万件という防衛・外交などに関する重要事項を秘密に指定して、全て国民の目から隠してしまうのである。
 だからこそ、国民の反対世論は短期間のうちに急速に燃え広った。
 ノーベル賞受賞者をはじめとする3500人を超える学者が強く反対の声をあげるなど、かつてない空前の状況が生まれた。ノーベル賞作家の大江健三郎も、12月10日の大阪市内での講演で「この法律で国民の信教・思想・良心の自由が危うくなっている。この秘密保護法は、まさしく憲法を改正せずに日本の国家を変えようとしている。」とその本質を厳しく批判した。

2 秘密保護法強行の背景にあるもの ―― それは、日米軍事情報包括保護協定である ――
 戦前は、軍機保護法・国防保安法などで、国民には政治・軍事の真実をかくして戦争に突入していった痛恨の歴史であった。この歴史を反省するどころか、自民党は2012年4月に発表した「憲法改正案」で現憲法の9条を改悪して、国防軍を設置し、その国防軍の「機密の保持に関する事項は法律で定める」としている。まさに、その「秘密保護法」が今、憲法改正を待たずに先取りして強行成立させられたのである。
 この背景にあるものは何か。それが「軍事情報包括保護協定(正式名称:軍事情報の保護のための秘密保持の措置に関する日本政府とアメリカ合衆国政府との間の協定)」である。これは、2007年(平成19年)8月10日に、日米が2プラス2日米安全保障委員会(日米の防衛庁長官と外務大臣が出席)で署名し、成立させた。日米軍事共同作戦をねらうアメリカの強い要求によるものであった。
 公表されているこの協定の「概説」では、「この協定は、軍事技術だけではなく戦術データ、暗号情報、高度のシステム統合技術など有事の時の日米共同作戦に必要な情報が網羅的に対象となる」とされている。
こうして、この秘密協定なるものが、日米の軍事共同作戦に必要とされていることが根本的に重要なのである。日本が戦争する国となり、集団的自衛権を行使して、アメリカとともに戦争する国となることを当然の前提としているのである。
 そして、重要なことは、この協定第6条「秘密軍事情報を保護するための原則」の(b)で「秘密軍事情報を受領する締約国政府(日本)は、自国の国内法令に従って、秘密軍事情報について当該情報を提供する締約国政府(米国)により与えられている保護と実質的に同等の保護を与えるために適当な措置をとること。」と定められていることである。さらに、第7条の(e)項の(ⅲ)では、次のように取り決めている。「当該情報を受領する締約国政府(日本)は、自国の国内法令に従って、当該情報について当該情報を提供する締約国政府により与えられている保護と実質的に同等の保護を与えるために適当な措置をとること。」とされている。
 これによって、今回の秘密保護法強行の根本的理由が明確になった。
 何のことはない―日本は、この「日米軍事情報包括保護協定」によって、日米軍事共同作戦遂行のために、軍事情報の秘密をまもるために、アメリカと同様に、国内法で「秘密保護体制」を作ることをアメリカに強要され、これを認めさせられていたのである。
 こうして、まさに、この憲法違反の秘密保護法なるものは、日本をアメリカとともに戦争する国にするために、その先駆けとして、アメリカの要求によって仕掛けられたものであることが明白である。
 まさに、対米従属の日米安保体制が秘密保護法の根源である。われわれは憲法をまもり、この秘密保護法の廃止をめざす今後のたたかいの中で、この根源である日米安保条約廃棄を大きな国民的たたかいにしてゆかねばならない。

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