ジョン・ニコルス著『市民蜂起  ウォール街占拠前夜のウィスコンシン2011』

2012年11月26日

大阪・日本の労働者・市民への呼びかけにどう答えるか

評者・弁護士 小 林 保 夫

 私の親しい友人である梅田章二さん・喜多幡佳秀さん監訳、おおさか社会フォーラム実行委委員会日本語版編集による標記の著作が出版された。 本稿は、私の切実な読後感を踏まえて、みなさんにこの著作を紹介し、購読をお勧めするものである。

1  本書の概要
 ――公務員労働者の団体交渉権を守るためのウイスコンシン州市民のたたかい――

 資本主義の行き詰まりを新自由主義的な方向と政策で打開しようとするアメリカの企業・富裕層は、ウィスコンシン州で共和党のスコット・ウォーカー知事のもとで緊縮財政政策を推し進めるにあたって、これに対する抵抗を排除するために、2011年2月11日、公務員労働者、教員等から団体交渉権を奪い、労働組合の権利を制限する内容を含む財政改革法を提案した。これに対して、同州のみならず全米の民主主義勢力が反対の声を上げ、同州首都マディソン市において、当初の50人から、10万人にも及ぶ集会参加者を得、ついに同月20日、州議事堂を占拠するに至った。3月3日占拠を終結し、またさきの団交権制限法案の可決を見るが、その後も共和党議員や同上知事のリコール運動への展開とその成功をかちとった。
 ウィスコンシン州におけるたたかいは、他の諸州におけるたたかいとともに、さらに2011年7月に始まる全米の市民による「ウォール街の占拠」と思想的・運動的に連動するものであった。
 本書は、ウィスコンシン州におけるたたかいを跡づけ、その正当性をアメリカ合衆国憲法(修正第1条 抵抗権)、民主主義の観点から解明するとともに、このたたかいについてのメディアの対応やあり方を検証したものである。
 著者は、アメリカのオピニオン誌「ネイション」の政治記者・ジョン・ニコルスであり、みずからも、ペンと行動によってこのたたかいに参加し、立ち上がった市民を鼓舞激励した。

2 著者の日本の読者への呼びかけ 
 
――たたかいと連帯の必要――

 著者は、「日本語版への序文」において、日本の読者に以下のように呼びかける。
 「ウィスコンシン州のスコット・ウォーカー知事が州の公務員の団体交渉の制度を解体しようとした。」のに対して、州民たちは「アメリカの現代史の中で最大の、最も戦闘的な、労働者の権利を擁護する運動を展開した。」
 世界の多くの国で、政治的利権グループは、「『緊縮財政』の旗を掲げ、経済的な混乱と財政の困難な中では労使関係や、社会福祉や、国家の役割の根本的な変革が必要であると主張している。緊縮政策は嘘である。彼らは『負担を分かち合う』べきだと言っているが、現実には、勤労大衆の賃金や福利が犠牲にされ、若者、高齢者、失業者、貧困層に対するサービスが切り捨てられる一方で、企業と富裕層は保護され、冨と権力を上に向けて再配分する政策によって、一層富裕化している。」
 「ウィスコンシンの闘いは、労働者の権利と組合の力に対する攻撃に反撃し、生き延びた経験の物語である。それは、純然たる勝利や、たやすい勝利ではない。後退もあった。ウォーカー知事は、彼の政策のいくつかの要素をすでに実施した。労働組合と労働者は大きな打撃を受けた。知事による州議会上院の支配を終わらせることができたが、ウォーカー知事を失職させることはできなかった。」
 「ウィスコンシンの教訓は、反労働者的な政策との闘いは可能であるだけでなく、必要であるということである。」
 「ウィスコンシンのもう一つの教訓は、国際連帯である。」
 そして彼は、日本の読者に対しても「連帯を!」と呼びかける。

3 私たちはウイスコンシン州のたたかいから何を学ぶか
 ――ウィスコンシン州における攻撃とたたかい、大阪における橋下・維新の会の攻撃と私たちの闘いの共通の普遍的性格――
 
   本書が紹介するウィスコンシン州における労働者・市民への攻撃の内容は、まさに今大阪で展開されている橋下・維新の会の労働者・市民に対する労働基本権侵害、福祉攻撃と驚くほどの共通性を有するものである。
 橋下氏は、府知事当時、大阪府の職員・教員に君が代斉唱を義務づける条例を制定し、その後大阪市長に就任すると同市においても同様の条例を制定したうえ、さらに維新の会所属の府知事とともに、憲法や地方公務員法はもちろん、改悪教育基本法さえ無視して、府市職員・教員の組合活動・政治活動の権利、教育活動を徹底的に抑圧する条例を制定した。
 橋下・維新の会は、これらによって労働者・市民の抵抗を排除して、労働者の権利に敵対し、市民の福祉を切り捨て、核武装まで可能にするような新自由主義的・反憲法的・反民主主義的な内容の政策(「維新八策」)を推進しようとしている。
 しかも、これらの政策への志向は、橋下・維新の会に限らず、日本の支配層に共通するものである。
 この点で、ウィスコンシン州における事態は、わが国の労働者・市民にとってよそごとではない。
 ウィスコンシン州における市民の反撃は、私たちに多くの教訓と示唆を与えるものではないだろうか。
 橋下・維新の会が「維新八策」に掲げる政策は、客観的には、大阪府市民の99%の利益に敵対し、圧倒的多数の市民の平和への願いに敵対するものである。
 したがって、このような勢力に対するたたかいは、客観的には圧倒的多数の市民の理解と支持を得る性格を持つものであろう。

4  マイケル・ムーアは言う
 ―― 「ウイスコンシンで起こっていたことはどこででも起こりうる」――

 本書について、マイケル・ムーアは、「ジョン・ニコルスはウィスコンシンの闘いの意義が1つの州にとどまらないことをすぐに理解した。それは私たちみんなが待っていた闘いである。人々は『もうたくさんだ!』と叫んだ。ジョンはウィスコンシンで何が起こったかを語っているだけではない。ウィスコンシンで起こっていたことはどこででも起こりうることを私たちに教えている。」と語った。
 私も、マイケル・ムーアのひそみにならって、「2011年にウィスコンシンで起こっていたことは日本でも起こりうることを私たちに教えている。」と語って、とりわけ橋下・維新の会が、新自由主義の政策を振りかざして、大阪をはじめとするわが国の労働者・市民に加えようとしている憲法・民主主義破壊の攻撃に対して、スコット・ウォーカー知事らの労働基本権攻撃とたたかって成功を勝ちとったウィスコンシン州の市民のようにたたかうことを訴えたい。

株式会社かもがわ出版
2011年10月1日発行
定価 1800円+税