連載TPPリポート③ TPPと医療

2012年05月25日

大阪医労連書記長 染 原   剛

 今、年収200万円以下の給与所得者が5年連続で1000万人を超え、2010年の調査では給与所得者全体の22.9%を占めています。また、就業形態の多様化に関する総合調査結果では、非正規社員の割合が38.7%と過去最高となっています(2011年8月29日、厚労省発表)。 その上、警視庁の「自殺の概要資料」によれば、自殺者数は1998年以降3万人を上回る水準が続いています。そして今、子どもの貧困や高齢者の孤独死・孤立死が社会問題となっています。生活保護の受給者は昨年7月全国で205万人を超え、戦後最多を記録する異常な事態となっています。このような社会情勢のもと、経済困難なために医療機関にかかる事ができない人も少なくありません。全日本民医連の「国保など手遅れ死亡事例」調査では、2010年は71例と調査開始以来最高で、前年の1.5倍になっています。国保の滞納世帯の割合が21%と、5世帯に1世帯が滞納という状況が10年近く続いています。厚労省の社会保障審議会医療部会は2011年7月6日、都道府県が5年ごとに策定する医療計画に記載する疾病に、精神疾患を新たに追加し5疾病(がん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病・精神疾患)とすることで合意しました。

 この様に、深刻な労働者・国民の貧困問題、精神疾患をはじめとした健康不安が現実の課題としてのしかかる中で、野田首相は所信表明演説で、TPP参加について「早期に結論を出す」と表明しました。TPPは、「非関税障壁」撤廃のもと、暮らしと経済のあらゆる分野が対象となります。これまでも、米国は繰り返し民間医療保険や医薬品などの市場開放を要求し、米国資本の生命保険会社や巨大チェーンホスピタルによる病院経営参入を目的としています。現行の医療保険制度において、市場開放の障害となる日本の公的医療保険制度(共済)や国民皆保険制度が標的となっています。その上、医療分野においても、混合診療(保険のきく診療と自由価格の医療)の全面解禁で保険のきかない医療が拡大し、お金の有る無しによって受けられる医療が制限され、株式会社の参入によって、もうけ本位の医療が優先されることとなります。当然、不採算部門(医療)の切り捨て、地域からの撤退等がおこります。つまり、混合診療を全面解禁すれば、診療報酬によらない医療市場が拡大し、公的医療保険の縮小が懸念されます。外資を含む民間企業にとっては魅力的な市場となり、医薬品や医療機器の高騰も考えられます。さらに、医療従事者にとっても、すでに看護師や介護士の一部受け入れが進められている状況はありますが、更に、医師・歯科医師等も対象となります。現在アジアからの受け入れは、看護師・介護士不足が大きな理由となっていますが、現行の労働条件や賃金水準からすると、営利が目的になった場合は、更に労働条件の悪化や低賃金が医療分野に拡大することとなります。そして、医師などは現状の過労死水準の労働条件からの離脱と高収入を求めて海外流失が起こることも考えられます。この事は、医師・看護師等が多国籍で移動する事による人材不足や偏在、労働条件の低下などが今以上に進んでいくことに他なりません。当然、日本の医療・福祉・介護は根底から崩壊が始まり、金の有る無しで命も健康も介護も左右される事態の進行と健康破壊と命の切り捨てがおこります。

 その反対に、海外富裕層の医療費は全額自己負担として旅行会社などと提携し、政府も積極的に受け入れ医療機関の認証制度(医療特区)等全面的に支援(医療ツーリズム)した医療形態が広がっていくことも考えられます。保険のきかない医療技術、医薬品、医療機器が自由に使われる事から、国内の富裕層からも、自分たちも自由に使いたいとの要求が高まる事が考えられ、混合診療の拡大につながり保険診療の患者さんが取り残される事になります。医慮機関側でも利潤追求のために、患者の選別が起こり、高機能を備えた病院は、高賃金で診療能力の高い医師、看護師等の人材を集中させる結果となります。この事から、地域の医療体制は偏在し、施設でも人材でも劣悪な状態に落ち込み地域医療の崩壊が更に進むこととなります。正に、医療が営利企業の目玉商品となり、結果的には諸外国に市場開放することとなります。

 橋下・維新の会は政権党と社会の矛盾と対峙しているようなパフォーマンスを繰り広げていますが、維新八策ではTPP推進となっており、その政策は米国・財界いいなりで、民主党や自民党と何ら変わるところがありません。
 この様な情勢の中で、野田首相は声高に税と社会保障の「一体改革」を叫び、橋下大阪市長の2条例をはじめとした人間の権利の切り捨て、憲法否定が進んでいます。それらに何ら批判することなく、助長を促進するマスコミの異常性は目に余るものがありますが、
 今こそ事実を見つめ、安全・安心の医療・福祉・介護を守る運動・連帯の輪を広げ、TPPをぶっ壊す市民・府民・国民の力を結集することが大切です。