民主法律時報

Q:条例案の体罰に対する態度は?

Q:教育基本条例案は、児童生徒への体罰について、どのように定めていますか。また、以前からあった教育委員会規則によれば体罰をした教員は懲戒対象でしたが、この条例案ではどのようになっていますか。

A:本条例案は、教育上の必要があるときは「必要最小限の有形力」を行使してよいと規定しています。但し書きとして「体罰を加えることはできない」とも規定されていますが、有形力の行使を正面から認めてしまっているところに大きな問題があります。
確かに、文部科学省は平成19年2月5日付で、「問題行動を起こす児童生徒に対する指導について」と題する通知を発し、「児童生徒に対する有形力(目に見える物理的な力)の行使により行われた懲戒は、その一切が体罰として許されないというものではない」として、一定の場合には有形力の行使を認めています。これ自体が問題ですが、同通知においても、「いかなる場合においても、身体に対する侵害(殴る、蹴る等)、肉体的苦痛を与える懲戒(正座・直立等特定の姿勢を長時間保持させる等)である体罰を行ってはならない。」と明言しており、本条例案のように「教育上の必要性」さえあれば安易に有形力の行使を認めている訳ではありません。有形力の行使を正面から認めることで、「教育上の必要がある」とか、「必要最小限度のみ」という不明確な基準によって、「許容される有形力の行使」の解釈が拡大され、事実上の体罰の容認に繋がることが危惧されます。
  学校教育法施行規則26条1項は、「校長及び教員が児童等に懲戒を加えるに当っては、児童等の心身の発達に応ずる等教育上必要な配慮をしなければならない。」と定めており、有形力の行使以外の方法による懲戒であっても、児童生徒に対して行う場合は心身の発達に応じた慎重な配慮を必要としています。このように、教師の生徒に対する懲戒は元来慎重な配慮が必要とされるところ、本条例案は、こうした側面を捨象し、教育上の必要があれば容易に有形力の行使を認めていると言わざるをえず、極めて不当です。
 また、これまでの大阪府教育委員会懲戒処分指針第2の1(13)によれば、「児童生徒に体罰を行った職員は、停職、減給又は戒告とする。」と規定されていましたが、本条例案ではそれが抜け落ちています。体罰を行うことは絶対的に禁止されているにもかかわらず、同行為を懲戒処分の対象から敢えて外す必要性は全くありません。教育には一定の有形力の行使は必要であるという価値観が優に垣間見れ、明らかに不当といえます。 

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