決議・声明・意見書

意見書

無期転換ルールの見直しに関する意見書

2021年12月9日
民 主 法 律 協 会
会長 萬井 隆令

 

1 はじめに

厚生労働省は本年3月24日、多様化する労働契約のルールに関する検討会(以下「検討会」という)を設置し、労働契約法の一部を改正する法律(平成24年法律第56号)附則第3項を受けて、無期転換ルールの見直しに関する検討を行っている。本意見書では、無期転換ルール施行後の実態、問題事例を踏まえて、見直すべき点について意見を述べる。

2 有期労働契約規制のあり方

(1) 現行のルールは有期労働契約が更新され、同一使用者に5年を超えて継続的に雇用される場合には、当該労働者に無期転換権を与える。

留意すべきは、有期契約の締結事由に何らの規制を設けていないことである。使用者が臨時的・一時的に労働力を得る必要がある場合に限らず、恒常的・中核的業務に従事させる場合においても締結し得るし、必要に応じて更新するか否かを自由に決定し得ることを前提としている。

しかし、労働者にとって賃金を得る必要は恒常的でかつ死活的問題であることからすれば、使用者に有期労働契約締結・更新の自由を与えることは、その期間、労働者を雇用喪失の恐怖に晒し、必要以上に使用者に従属させ、当然の権利主張もできず、不公正な労働条件も受容せざるを得ない状態に追い込んでいる。

この点、労働契約法(以下、「労契法」という)19条が一定の場合に雇用継続の期待権を保護し、また、旧労契法20条(現行パート・有期法8条・9条)が不公正な労働条件の是正を求めてはいるものの、いずれも裁判手続を経なければ救済が図られない上、その救済内容は極めて不十分であり、大多数の有期契約労働者の雇用・生活の安定と処遇の改善には繋がっていない実情にある。

有期労働契約の規制は、使用者の締結・更新の自由を規制することなくしては根本的な解決を図ることはできず、労働者の保護を十全なものとすることはできない。具体的には、労働契約は、期間の定めのない契約を原則とし、有期労働契約が締結できるのは、臨時的・一時的な業務の必要がある場合に限定する立法が行われるべきである。

(2) 労働契約の期間の定めは多様な働き方の一つとして有益であるとの見解があるが、それは誤りである。期間の定めがなくても労働者は自由に退職することができ、かつ、使用者からの解雇については解雇制限法理(労契法16条)によって厳しく制限されているから、契約期間を設けなくても労働者に不利益は生じない。有期労働契約は、労働者にとって雇用と生活を不安定にするだけで何らのメリットもなく、業務量や業務内容の増減が生じ得るという実態に対応し得るよう、専ら使用者の利益のために認められているにすぎない。

実態調査において、有期労働者の「仕事の内容・責任の程度が自分の希望に合っている」「勤務時間・日数が短く自分に合っている」との回答があることを捉えて労働者にもメリットがあるかのように言われるが、それらと契約期間とは全く関連しない事柄である。

(3) 有期契約労働者は、無期労働契約に比べて低賃金であることに加え、更新されなければ失業し、経済的にも大きな打撃を受けるが、更新されるかどうかは分からず、この点が雇用不安の元凶となっている。

新型コロナウイルス感染症により解雇・雇止めが増えており、厚生労働省の調査でも、2021年11月5日時点における解雇等見込は119,862人(うち非正規労働者54,671人)となっている。今後、雇用調整助成金が縮小、廃止されれば大きな打撃が予想される。

とりわけ、女性の有期契約労働者に対するしわ寄せは深刻である。総務省の労働力調査(2021年11月9日発表)によれば、非正規労働者数は2060万人(全労働者の36.6%)のうち女性は1413万人(女性労働者の53.4%)であるが、今年7~9月の3カ月平均で失業期間が6カ月を超えた女性は33万人に上り、昨年平均の28万人を上回っている。新型コロナウイルス感染拡大を機に失業が長引く女性が急増し、有期労働契約の濫用による雇用の不安定さが浮き彫りになっている。また、自殺対策白書によれば2020年の女性の自殺者数は前年より935人(15.4%)増えて7,026人であり、厚生労働省も、「新型コロナの感染拡大による労働環境の変化が、自殺者の増加につながる要因の一つと考えられる」と分析している。

雇用の継続は労働者の生存権保障の要であり、無期労働契約の原則は憲法13条、25条からも要請される。有期労働契約の規制は、本来、一時的・臨時的業務の必要による場合以外は、無期労働契約によるべきという常用雇用の原則を前提に行われるべきであり、現行の無期転換ルールはこの原則に近づける見直しが求められる。

以下では、検討会の論点整理にそって、各論点について意見を述べる。

3 無期転換を希望する労働者の転換申込機会の確保および周知の徹底

労働政策研究・研修機構(JILPT)が2020年5月に実施した「無期転換ルールへの対応状況等に関する調査」結果では、無期転換権を行使した労働者は僅か3.1%に留まっており、そもそも自身が無期転換権を行使できるのか、あるいは、いつの時点で行使できるのか認識できていない労働者が半数近くを占める状況であることが明らかになった。使用者は労務管理を行う中で労働者の勤務年数等も管理しているが、労働者は日々の業務に追われる中で、常に自身の労働契約の更新状況や勤務年数を正確に確認しているとは限らない。それゆえ、労働者からの無期転換権の行使の機会を確保するためには、使用者から労働者に対して、無期転換権が行使可能か否かについて契約の更新を行うごとに説明を行い、権利行使の機会の確保を図るべきである。

また、厚生労働省が2021年1月に実施した「有期労働契約に関する実態調査(個人)」では、無期転換ルールについて「内容について知っていることがある」と回答したのは38.5%にとどまり、「名称だけ聞いたことがある」が17.8%、「知らない」が39.9%となっている。厚生労働省は周知活動を続けてきたと説明しているが、約6割の労働者が無期転換ルールについて十分に知らないのが現状である。しかも、JILPTが2018年11月に実施した調査では、無期転換ルールについて「名称だけ聞いたことがある」が16.9%、「知らない」が32%であり、無期転換ルールについて理解する労働者が減少しており、厚生労働省からも使用者からも無期転換ルールに関する周知が適切に果たされていないことが示されている。無期転換権の行使の機会を確保するにあたっては、労働者に対する適切な情報提供(周知)が徹底される必要がある。JILPTが2021年1月に実施した「多様化する労働契約のあり方に関する調査(企業)」によれば、5年の通算期間を充たした労働者に対し無期転換できることを案内している企業は52.3%にとどまっている。労働者は、使用者を通じて情報を入手する割合が高いことからも使用者を通じた制度の周知も欠かすことができない。

以上のように、改正労契法の施行から約8年が経過した現状においても、周知が徹底されておらず、無期転換権の行使の機会が十分に確保されていない。その状況を改善するためにも、法改正により以下の①から⑤に定める事項を法律上明記すべきである。

①  労働基準法15条1項およびパート・有期法6条に定める労働条件の明示義務の内容として、「無期転換権の存在、内容およびその行使可能時期」を加えること。

②  有期契約労働者と労働契約を更新する際、使用者に無期転換権の存在および行使可能時期につき告知する義務を課すこと。

③  無期転換権が発生する契約更新時、使用者に無期転換権の存在、その行使方法、無期転換後の労働条件の内容を説明し、無期転換権の行使の意向の有無を確認する義務を課すこと。

④  労働者が無期転換権行使を控えることのないよう、無期転換権行使を理由とする不利的取り扱いを禁止すること。

⑤  上記①から④の義務違反により労働者が無期転換権を行使することができなかった場合には、使用者は雇止めができない(期間満了による労働契約の終了を主張できない)との救済措置を含む立法措置を講じること。

⑥  直ちに立法措置が講じられない場合、少なくとも①から④については、厚生労働省がモデルとして公表している労働契約書や労働条件通知書に無期転換に関する事項を記載して、使用者が労働者に対し情報提供すべきことを広く周知すること。

4 無期転換前の雇止めの防止

無期転換前に行われる雇止めとして、①無期転換申込権が発生する直前に、無期転換を阻止する目的での雇止め、②無期転換申込権が発生する前に不更新条項を設定して、当該条項を理由とした雇止め、③無期転換申込権発生前に更新上限を設定して、更新上限を理由とした雇止めなどが頻発している。顕在化していないものも含めれば、無期転換権発生前の雇止めは少なからず生じているのではないかと懸念される。検討会の行ったヒアリングにおいても、「5年以内の雇止めは非常に増えている。例えば独立行政法人などはかなり予算で縛られるような傾向がある」といった意見が出されている。

これに対し、無期転換ルール施行後、無期転換権発生前に行われた雇止めの効力をめぐり、雇止めを無効とする判決が多数言い渡されている。前記①の例では、高知県公立大学法人事件判決(高知地判令2.3.17労判1234号)は、「労働契約法18条1項が適用される直前に雇止めをするという、法を潜脱するかのような雇止めを是認することはできない」として、無期転換を阻止する目的での雇止めを無効と判断した。前記②の例では、近畿大学事件判決(大阪高判令2.9.10判例集未掲載)は、不更新条項が記された書面に署名押印して提出したとしても、「その記載内容どおりに雇用終了を受け入れる意思を有していたものとして更新に対する合理的な期待が消滅したとみることはでき」ないと判示し、日本通運事件判決(東京地判令2.10.1労判1236号)も、「不更新条項等を含む契約書に署名押印する行為があることをもって、直ちに不更新条項等に対する承諾があり、合理的期待の放棄がされたと認めるべきではない」と判示し、不更新条項を理由とした雇止めに対して、労働契約の更新に対する合理的期待を肯定する判断を示している。前記③の例では、山口県立病院機構事件判決(山口地判令2.2.19労判1225号91頁)は、就業規則の改正により雇用期間上限が5年とされたとしても、労働者には「既に契約更新の合理的期待が生じており、上記改正をもってその期待が消滅したとはいえ」ないと判示しており、博報堂事件判決(福岡地判令2.3.17労判1226号)も、労働者の「契約更新への期待は相当高く、その期待は合理的な理由に裏付けられたものといえ」、最長5年のルールがあったとしても「契約更新に対する高い期待が大きく減殺される状況にあったとはいえず」契約更新への期待は労契法19条で保護されると判示している。

無期転換ルールの趣旨は、有期労働契約が5年を超えて反復更新された場合は、有期契約労働者の申込みにより期間の定めのない労働契約に転換させる仕組みを設けることにより、有期労働契約の濫用的な利用を抑制し雇用の安定を図る点にある(平成24年8月10日基発0810第2号「労働契約法の施行について」)。上記裁判例でも問題となった、無期転換前の雇止めはその趣旨に真正面から反する。にもかかわらず、厚生労働省のリーフレットには、「無期転換ルールを避けることを目的として、無期転換申込権が発生する前に雇止めをすることは、労働契約法の趣旨に照らして望ましいものではありません。また、有期契約の満了前に使用者が更新年限や更新回数の上限などを一方的に設けたとしても雇止めをすることは許されない場合もありますので、慎重な対応が必要です」とされているのみであり、無期転換ルールの趣旨を潜脱する雇止めも許容される余地があるかのように記載されている。JILPTが2021年1月に実施した「多様化する労働契約のあり方に関する調査(個人)」では、無期転換ルールは有期契約労働者の雇用の安定化のために有効だと考える労働者の割合は38.2%に過ぎず、それどころか、雇用が安定しない理由として、「かえって更新上限設定等による雇止めが増える恐れがある」との回答もある。使用者による無期転換ルール逃れの規制が十分でなく、そのことが雇用不安をかえって増大させているのである。

そこで、使用者による無期転換権行使の妨害を禁じ、対象労働者らの救済を図るために、以下の規定を新たに立法により創設するとともに、無期転換ルールの脱法的な行為が違法であることを広く周知していくべきである。

①  無期転換申込権発生直前の雇止めを防止するため、無期転換権が発生する更新時から概ね1年前までの間に行われる雇止め等の不利益措置を原則禁止すること。この期間内の雇止めについては労契法19条1号及び同2号の要件を具備しているか否かにかかわらず、同条の規制に服するとすること。

②  有期労働契約締結後に不更新条項や更新上限を設けることは原則として禁止し、例外の場合を指針で具体的に明確化して、その必要性や内容を使用者から具体的に説明させるべきとすること。また、例外的に不更新条項等を設けた場合でも、当該条項を設けた時点で労契法19条の要件を満たす労働者については、その適用が除外されるべきこと。

5 通算契約期間の短縮およびクーリング期間の廃止

無期労働契約が原則であることからすれば、有期労働契約の通算期間を5年とすることは、あまりにも長期にすぎる。有期契約には雇用期間中の雇用保障機能しかなく、本質的にその雇用は不安定にならざるを得ず、反復期間の上限が長くなればなるほど、労働者は不安定な地位に置かれ続けることになる。そもそも、有期雇用は、一時的・臨時的な業務に対応するために例外的に認められるものであるから、5年の上限はもはや一時的・臨時的な雇用とはいえない。

そもそも、5年という年数は、労働政策審議会での労働者側の1年から3年という意見と、使用者側の7年から10年という意見の妥協の産物として設けられたに過ぎない。期限の上限について、諸外国では、オランダでは3年、フランスでは18カ月、ドイツでは2年、イギリスでは4年、韓国では2年となっており、日本は特に長期である。

5年という期間は実態にも即していない。厚生労働省の「有期労働契約に関する実態調査(個人)」によれば、有期契約労働者の現在の会社の通算契約期間は3年以内が42.1%、5年以内が59.8%であり、5年を超える割合は38.2%となっている。約6割の有期契約労働者は5年を超える前に労働契約が終了しており、有期労働契約の通算期間を5年とすることは雇用の安定を図ることができない。したがって、仮に通算期間の定めを設ける場合でも、5年を大幅に短縮すべきである。

期間の算定に当たっては「クーリング期間」を設けるべきではない。「クーリング期間」を設ければ、無期転換を望まない使用者は、一旦雇止めにし、例えば6ヶ月経過後に再び当該労働者を有期で雇用し、それを繰り返すことができることになる。クーリング期間を設けて期間の算定をリセットできることになれば、無機転換権を全く行使できない状態を作り出すことが可能になる。したがって、クーリング制度は直ちに廃止すべきであり、同一使用者との間の有期労働契約期間が通算して一定の期間を超えれば無期転換ルールが適用されるべきである。

6 無期転換後の労働条件

労契法18条および20条の立法趣旨は、有期契約労働者の雇用不安および通常の労働者(正社員)との労働条件格差の双方を解消し、有期契約労働者の待遇改善を実現することにある。

しかし、無期転換後の労働条件について、労契法は、18条1項後段が現に締結している契約内容と「同一の労働条件(当該労働条件(期間契約を除く。)について別段の定めがある部分を除く。)とする」と定めるだけである。

厚生労働省の「無期転換ルールと多様な正社員の雇用ルール等に関する実態調査の概況」では、無期転換に当たって「別段の定め」をしている企業は29%(パートタイムに至っては9.2%)で、そのうち「別段の定め」により処遇の改善が図られる企業の割合は46.2%と半数を下回っている。無期転換前と後とで働き方や賃金、労働条件に変化がないと回答した無期転換労働者は全体の66%以上にも及んでおり無期転換労働者の多くは正社員との待遇差がそのまま残り続けている。

このような現状は、無期転換権の行使にも大きな抑制効果を与えている。厚生労働省の同概況によれば、無期転換を希望しない理由として、「契約期間だけ無くなっても意味がない」、「頑張ってもステップアップが見込めない」など、無期転換後に労働条件の改善が見込まれないことが挙げられている。現に、当協会の有期・パート・非常勤問題研究会にも、「無期転換権を行使しても労働条件は変わらない」「労働条件が変わらないなら無期転換権を行使する意味がない」といった声が多数寄せられている。

一方、現行法上は、「別段の定め」をすれば労働条件を低下させることも可能であり(労働契約法の施行通達(基発0810第2号平成24年8月10日)も「無期転換後における労働条件を従前よりも低下させることは、無期転換を円滑に進める観点から望ましいものではない」とするのみである)、このような不安が無期転換権行使を妨げる要因にもなっている。無期転換後の労働条件に関する現行法の定めは、正社員と有期契約労働者の労働条件格差の是正や雇用不安の解消といった法の目的を達成するためには全く不十分である。短時間・有期契約労働者について正社員との間の差別的取扱いや不合理な待遇差を禁止するパート・有期法8条及び9条のような、無期転換労働者と正社員との間の差別的取扱いや不合理な待遇差を禁止する法規制が存在しないことは立法の不備といえる。そのため、有期契約労働者が無期転換権を行使した後、正社員との間に不合理な労働条件格差があっても、その是正を求めて争うことすら困難な状況となっている。

同様に、パート・有期法14条のような、使用者に対して、正社員との間の待遇の相違の内容および理由等について無期転換労働者に説明することを義務付ける法律も存在しない。そのため、無期転換労働者は、自らの待遇が正社員と格差があることを認識する手段すら持っていないのである。

以上より、有期契約労働者の雇用不安および労働条件格差を解消する労契法18条、20条の立法趣旨を実現するために、以下の①から③を新たに立法により創設すべきである。

①  労契法18条1項後段の「別段の定め」による労働条件の低下を禁止すること。

②  無期転換労働者と正社員との間でパート・有期法8条及び9条と同様の規制を設け、差別的取扱いおよび不合理な待遇差を禁止すること。

③  使用者に対して、パート・有期法14条と同様の規制を設け、無期転換労働者に対して正社員との間の待遇の相違の内容および理由等について説明する義務を課すこと。

                              以 上

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