民主法律時報

ローソン事件~加盟店従業員のローソン本部に対する損害賠償請求訴訟で画期的和解~

弁護士 喜田 崇之

1 はじめに

大手コンビニフランチャイズ・ローソンの加盟店オーナーAが経営する店舗で正社員として勤務していた原告が、給与未払い・オーナーAから暴行等のパワハラ被害を受け続けていた事案で、ローソン本部に対し、未払い給与約1000万円、慰謝料300万円余りの損害賠償請求訴訟を大阪地裁に提起していた。地裁(第5民事部、中山裁判長)での5年9か月の審理を重ね、2021年6月10日、ローソン本部が、原告に対し、一定の解決金を支払うとともに、以下の再発防止等の努力条項に合意する画期的な和解が成立した。
事案や審理内容を報告する。

2 事案の概要等~原告の過酷な勤務環境

原告は、大阪府内でローソン店舗を経営するオーナーAのもとで雇用され、平成22年9月頃に正社員となった。

原告は、平成24年1月頃、オーナーAから脅迫され、店に発生した損失金350万円を支払う旨の念書を書かされた(原告が全く関係のない損失がほとんどであり、そもそも原告に負担させるべき性質のものではない。)。そして、念書作成後、遅くとも平成24年4月から退職する平成26年6月まで、給与と損害の相殺を理由にして、給与が一切支払われなくなった。

また、原告は、オーナーAから日常的な暴力・暴言等のパワハラを受けており、店舗に来たローソンSVらもその様子を度々目撃していた。

原告は、平成25年1月頃、一つの店舗の実質的な店長となり、午前8時頃~翌深夜1時頃まで勤務していた(木曜日のみ午後5時頃で勤務終了)。ほとんど休日はなく、平成24年12月3日から原告の父親の葬儀の関係で平成25年12月15日、16日の二日間の休み(父親の葬儀関係)を取るまで連続377日間勤務、また、そこから退職する平成26年6月2日までさらに連続168日勤務と殺人的なシフト状況であった。

また、夜勤バイトのシフトに穴があいたときには原告が夜勤をしていた。そのため、原告は、朝から連続して夜勤をして次の日の深夜まで勤務する(連続約40時間勤務)こともしばしばあった。当該店舗では、勤怠記録があったが、原告は、オーナーの指示で勤怠記録をつけておらず、勤務シフト表にも原告の名前はなかった。

原告は、約2年もの間、給料が全く支払われない中で過酷な長時間労働を強いられており、廃棄用の食品等を食べたり、母親からの援助で何とか生活していた。

実は、原告は、平成25年2月頃、長時間労働であることや休みが取れないということを、当時のSVに相談していた。当該SVは、本部ZM(ゾーンマネージャー)に、このままだと原告が辞めてしまう可能性があると報告・相談していた。

しかし、当該ZMは、後の証人尋問で、そもそもSVから相談・報告を受けたことすら記憶に残っておらず、SVに対しどのような指示を与えたかについて明確に記憶していないと証言した。また、後任に対する引継ぎも一切していないことや、オーナーAに対する調査についても記録がない旨を証言した。

つまり、ローソン本部は、原告の長時間労働の問題を具体的に認識していたにもかかわらず、事実関係の確認も問題を解決する具体的な措置も講じなかった。

3 和解の内容とその意義

提訴から約5年9か月を経て、画期的な和解が成立した。本和解で最も重要な点は、以下のローソンの再発防止等に関する努力条項である。

「被告は、労働基準法、最低賃金法及び労働安全衛生法をはじめとする労働関連法規等の遵守等に関して、被告の加盟店に対する適切かつ相当な教育を行い、加盟店従業員が働く喜びを感じる職場環境の整備について不断の努力を行い、また、加盟店従業員が過重労働を強いられたり、適切な賃金や休日休暇を取得する権利を侵害されるなどしないよう注意を払い、必要に応じてオーナーに対する指導を行う旨規定する『ローソン倫理綱領』に従って、加盟店に対しての指導に努めるものとする。」

本和解は、加盟店従業員の異常な長時間労働や賃金不払い・パワハラ等の問題を被告ローソンが放置していた違法性を正面から問う裁判において、直接雇用関係のないローソンが一定の解決金を支払い、かつ、その上で前述した再発防止に向けた努力条項を含めて和解に合意したものである。ローソンが、直接の雇用関係のない加盟店従業員の長時間労働・未払い賃金等の問題について、責任をもって解決していく姿勢を鮮明に表したものであり、大変重要である。

今後、ローソンは、加盟店の従業員が違法な長時間労働を強いられていないか、サービス残業を強いられていないか等について注意を払って確認し、必要に応じて、オーナーに対する指導等をしっかりと行っていくことになるため、フランチャイズ実務は大きく変わることになると考えられる。また、他の大手コンビニ本部においても、同様の体制を取っていかなければならないことを示唆するものであり、他の大手コンビニ本部あるいは他業種のフランチャイズ業界の実務に与える影響も、決して小さくない。

最後になるが、本事件の弁護団は、吉岡良治、西念、勝俣、岩佐、稗田、清水(敬称略)喜田の合計7名で、民法協独禁法研究会のメンバーである。弁護団のメンバーには多大な尽力を頂き、この場を借りて心からのお礼を申し上げたい。

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