民主法律時報

ベトナム人技能実習生の解雇事案

弁護士 中峯 将文

1 はじめに

ベトナム国籍の元技能実習生であるX(依頼者)による、実習実施機関の代表者個人B及び監理団体Cに対する不当解雇等を理由とする損害賠償請求訴訟で、今般、B及びCがXに対しそれぞれ100万円ずつ支払う旨の和解が成立したので、報告します。

2 事実の経過

Xは、2016年6月12日、Aを実習実施機関、Cを監理団体として、技能実習の在留資格をもって入国したベトナム人技能実習生です。

Xは、同年7月22日からAで就労を開始しましたが、就業期間中3か月間の出勤日数は28日でその間の賃金支給額も合計で僅か3万4000円ほどでした。Xは、ベトナムで約100万円の借金をして来日してきており、借金返済のため毎月ベトナムに送金する必要がありましたが、それが出来ないどころか日本で生活をしていくことさえ儘ならず、AやCに対して何度も待遇の改善を求めましたが、一向に改善されないため、同年11月5日頃やむなくSNS等に投稿し助けを求めました。すると、Aは、同年11月7日、突如Xを呼び出して解雇を言い渡し、その日のうちに、Cに引き渡しました。

Cからは当初別の受入企業を探すと伝えられておりXはそれを信用していましたが、同月17日、XがCから新しい職場に行くと告げられて自動車に乗ると、そのまま岡山空港に連れて行かれました。Xは、意思に反して帰国させられることに納得が出来ず、出国ゲートに入りCの職員が離れたところで出入国審査官に助けをもとめ帰国を免れ、大阪にいる友人宅へ行きました。

その後、Xは、支援者の協力を得て2017年6月頃、Aを相手方とする調停を申し立て、同年11月30日、Aから解決金 万円が支払われました。

調停成立後、Xは、他の実習実施機関を探すために特定活動の在留資格で在留期間を更新しましたが、結局見つからず、2018年5月13日、やむなくベトナムへ帰国しました。

3 訴訟における論点

私が相談を受けたときには既にAとの間で調停が成立していたため、BやCに対して損害賠償を請求するためには、B等に不法行為(Bに関しては代表者の対第三者責任も主張)が成立しなければなりません。

この点、代表者個人に不法行為が成立するかという問題と、監理団体Cに不法行為が認められるかという問題があり、特に後者については、解雇への関与の程度について立証が困難と思われました。

しかし、①訴訟提起後、説得の甲斐あり、元従業員3名の方が、Xの働きぶりや解雇の経緯について証言してくれることになったこと、②A及びCの連名で作成された、虚偽内容の行方不明報告書が見つかったこと、③失踪賠償金として2000ドルが送出し機関からCに支払われたことを示す領収書が見つかったこと、及び、④A及びCの不正行為が認定されていたこと(理由は強制帰国が認定されたわけではなく、技能実習計画に基づく技能実習を実施しなかったこと及び隠ぺい目的で虚偽の文書等を提供したこと)が判明したこと等から、裁判所の有利な心証を得られました。

4 解決水準

解雇を不法行為と構成する損害賠償請求の場合、退職時給与の6か月分相当額が損害と認定されることが多いと思われます。Xは、B及びCの行為により日本での再就職の道を断たれていることからより長い期間損害が認められて然るべきと考えましたが、裁判所から当初示された和解案は100万円でした。

しかし、和解案が示された2021年3月時点で借金の合計金額は150万円まで増えており、100万円を受け取っても借金が全額返済できない状況にありました。そこで、Xの窮状を訴えて解決金の増額を求めたところ、裁判所も理解を示してくれ、200万円の支払いをB及びCに促した結果、和解に至ることが出来ました。

5 最後に

結果として、Xは借金を全額返済でき、後日、借金の担保として債権者に渡していた土地の権利証を取り戻すことが出来たと報告を受けました。まさに弁護士冥利に尽きるものでありました。

しかし、在職中に救済の手が差し伸べられていたら、Xは帰国しなくてよかったかもしれません。

マイグラント研究会では、外国人労働者のためのFacebook相談ページを作っています。多言語対応できるものにする予定ですので、支援者や当事者の方々には、このページを活用していただき、より早期の問題解決の助けになればと思っています。よろしくお願いいたします。

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