民主法律時報

りんくう総合医療センター 未払い賃金請求事件和解解決のご報告

弁護士 加苅  匠

1 勝利和解により解決!

本件は、大阪府の泉州南部地域の拠点病院であり、コロナ禍では特定感染症指定医療機関として地域の感染症対策の拠点としての役割を果たしているりんくう総合医療センターの労働組合「りんくう労組」の組合員(全て医療従事者)155名が、労基法に基づく未払い賃金の支払いを求めて、大阪地方裁判所堺支部に集団提訴した事件です。

提訴から2年8カ月が経過しましたが、みなさまの支援を受けながら粘り強く闘い続け、2021年5月20日、和解により解決しました。

具体的な提訴に至る経過や裁判上の争点は、民主法律310号や民主法律時報2018年10月号で紹介しています。本稿では、提訴後の経過と和解の意義についてご報告します。

2 提訴後の経過と裁判上の争点

(1) りんくう労組は、2018年9月 日の第1次提訴(原告 名)以降も、裁判闘争と併行して、「法を守れない病院にいのちや健康は守れない」と訴え続け、職場環境の改善を求める取組みを続けました。

その結果、組合の取組みへの共感・支持が広がり、組織拡大につながりました。また、裁判闘争にも、4次にわたる提訴を経て、合計155名もの原告が立ち上がることとなりました。

(2) 裁判では、①就業規則上3交代と定められているのに2交代で働かされていた交代制勤務職員(看護師等)について、変形労働時間制の有効性や、4週155時間の所定労働時間を稼働し、その対価として基本給月額を支払うとの合意の有無ないし有効性、②監視断続的業務についての労基署長の許可なく働かされていた宿日直勤務職員(検査技師等)について、宿日直勤務後に付与される休日や半日休によって所定労働時間の勤務をしていないから、ノーワークノーペイの原則に基づいてその時間分の基本給相当額を控除するという被告の主張の正当性、③提訴より2年前の賃金の時効消滅などが争われていました。

3 勝利和解とその意義

(1) 2021年1月、新型コロナウイルス感染症が収束を見ない中で、職員が安全・安心に働くことができる職場環境の下で、一丸となって感染拡大の防止と治療体制の確保を図るべく、裁判所からの和解勧試もあり、裁判手続内外で協議を続けた結果、原告らの主張が認められることを前提に、病院が労基署から是正勧告を受けたことを重く受け止め職員が安全・安心な職場環境の下で働くことができるよう法令順守に努めることを約束し、一定の解決金を支払う旨の和解が成立しました。

和解の成立後、森木田裁判長は「コロナ感染拡大により医療に携わる方々の負担が大きく厳しい状況にあります。本件は、双方の主張が厳しく対立していましたが、(コロナ禍の状況の中で)原告被告ともに早期解決する意向を示し、和解で解決する決断をされたことに敬意を表します。」とコメントし、両者の決断を称えました。

(2) 本件和解により、病院が安心・安全な職場環境の確保や法令順守に努めることを誓約し、正当な経済的救済を受けることができたことは、コロナ禍の状況を含めて過酷な労働を強いられている職員にとって大きな励ましとなるものです。

また、医療の現場では、医療従事者の使命感や献身性に甘え、慢性的な長時間労働やサービス残業といった違法な働き方が横行しています。本件和解は、労基法など「法をまもってこそ患者のいのち・健康が守れるのだ」というメッセージを発信するものであり、職場改善を訴える全国の医療従事者を励ますものです。本件をきっかけに、コロナ対応に勤しむ全国の医療機関にて、法令順守・職場改善の機運が高まることを期待しています。

 (弁護団は、山﨑国満、増田尚、井上耕史、谷真介各弁護士と筆者)

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