民主法律時報

日検事件――偽装請負でも直接雇用を認めない不当判決

弁護士 西川 大史

1 はじめに

全港湾名古屋支部及び阪神支部の日興サービス分会員の組合員16名が日本貨物検数協会(日検)に対して、労働者派遣法 条の6第1項5号に基づき直接雇用を求めた事件で、名古屋地裁(井上泰人裁判長)は、2020年7月20日、偽装請負や日検の脱法目的を認めたものの、原告らの直接雇用を認めないという不当判決を言い渡しました。

2 事案の概要

日検は、検数、検量、検査などを営む一般社団法人です。日検の指定事業体である日興サービス株式会社の従業員は、日検名古屋支部の職員から直接指揮命令され、日検名古屋支部受託の検数業務を行っていました。組合員らは、日検を派遣先とする派遣労働者であると疑いませんでした。

ところが、別件の不当労働行為救済申立事件(日検の団交拒否、使用者性が争点となった事件)の調査期日で、府労委から日検に対し、日興サービスの従業員が労働者派遣法上の派遣労働者であることの確認や、日検と日興サービスとの契約内容を明らかにせよとの求釈明がなされました。ところが、日検は府労委からの求釈明になかなか応じようとしませんでした。日検の対応に不審を抱いた全港湾阪神支部が日興サービスとの団体交渉において、日検との契約形態を明らかにするよう求めたところ、業務委託契約の形式であり偽装請負であったことが発覚しました。しかも、日検と日興サービスは、2016年1月に、秘密裏にその業務委託契約を派遣契約に切り替えていました。日興サービスの従業員に派遣労働への切り替えにあたっての同意もとっていません。

3 裁判所による偽装請負、脱法目的の認定

判決は、日検から原告らへの業務指示、制服の着用、身分証の発行がなされていたことや、派遣契約への切替えの前後で就労実態が変わっていないことから、偽装請負であることを認定しました。なお、日検は、証人尋問において証人申請もせず、原告らへの反対尋問でも業務実態について追及することもありませんでした。判決は、原告らの就労実態について、被告が何ら反論を裏付ける証拠を提出していないとして、偽装請負の判断の根拠としています。

また、判決は、脱法目的の意義について、「労働者派遣法等による規制を回避する意図を示す客観的な事情の存在により認定されるべき」との見解を示し、日検が派遣ではなく業務委託契約を締結したこと、原告らに対して長期にわたって指揮命令をしていたことなどから、日検の脱法目的を認めました。

4 日検による偽装請負の隠ぺいを追認した不当判決

ところが、判決は、偽装請負が解消されてから1年以内に、原告らが承諾の意思表示をしていないとして、原告らの直接雇用を否定し、請求を棄却しました。

これまで、組合では、日検に対して、何度も組合員の直接雇用を求めてきました。しかし、判決は、組合による直接雇用の要求によって労働契約の成立を認めると、労働者の希望を的確に反映したことになるとは限らないとして、原告の主張を退けました。裁判所は、労働組合が組合員の希望や利益を実現するために活動することをご存知ないのでしょうかと言いたくなります。

また、判決は、日検が府労委からの求釈明に回答せず、秘密裏に派遣契約に切り替えたことを厳しく批判し、承諾の意思表示の機会を奪ったことは不法行為の余地ありとまで判断しました。ところが、判決は、なぜだかよく分からない理由をつけて、派遣契約に切り替えたことから、違法な労働者派遣が解消したとして、直接雇用を認める必要はないとの判断を示しました。結論として、日検による隠ぺいを司法が追認したのです。理論的根拠も薄弱というほかなく、到底受け入れることはできません。

5 今後の闘い

本判決は、労働者派遣法40条の6第1項5号について初めての判断を示したものです。偽装請負の認定や脱法目的の解釈などは、高く評価することができますし、今後の同種事件でも参考になる判断だと思います。他方で、日検による偽装請負の隠蔽を結論として追認して、組合員の直接雇用を認めなかったことは、派遣労働者の雇用の安定を図るという改正労働者派遣法の趣旨を没却するものであり、司法の責務を放棄したものというほかありません。

原告ら・組合・弁護団は、改正労働者派遣法の趣旨が実現され、原告らの直接雇用を勝ち取るべく、控訴審での逆転勝利のために全力を尽くします。今後ともご支援をお願い致します。

(弁護団は、坂田宗彦、増田尚、冨田真平各弁護士と西川大史)

民主法律時報アーカイブ

アーカイブ
PAGE TOP