民主法律時報

裁判・府労委委員会例会報告 学童保育の先生の地位が、 こんなに不安定でよいのか? ―堺学童保育指導員労組への不当労働行為事件―

弁護士 下迫田 浩司

1 はじめに

2019年11月18日、裁判・府労委委員会の例会がエル・おおさかで開催されました。今回は、堺学童保育指導員労働組合への不当労働行為事件(以下、「本件」といいます。)の労働委員会における闘いについて検討しました。

まず、弁護団の冨田真平弁護士が中心的な報告を行い、適宜、弁護団の村田浩治弁護士が補足説明をしました。その後、堺学童保育指導員労働組合の谷口文美執行委員長と石岡裕司書記長から報告があり、そして、当事者本人が話をして、最後に、これらを踏まえて、出席者との間で活発な議論がなされました。

2 本件の概要

堺市の放課後児童対策事業(学童保育)は、1966年に公立学童保育仲よしクラブとして始まりました。
1997年4月に全児童対象の「のびのびルーム」事業が発足し、堺市は、随意契約により、公益社団法人堺市教育スポーツ振興事業団に委託して運営することになりました。

ところが、2015年9月、堺市の竹山修身市長が市議会において「民間のノウハウを生かす方向で検討すべき」との意向を示し、2016年10月、のびのびルーム管理運営業務について「プロポーザル方式」をとることが発表され、同年11月、プロポーザル方式の審査の結果が発表され、堺市の東区と美原区では「株式会社CLC」が選定されました。そして、2017年4月から株式会社CLCがのびのびルームを管理運営することになりました。

2016年12月に学童保育指導員らに対する説明会が開かれ、「のびのびルームの指導員経験のある方に引き続き勤務をお願いしたい」との説明がなされました。2017年1月の保護者説明会においても、現在の学童保育指導員に残ってもらうことを最重要視している旨の説明がありました。

ところが、2017年2月1日に堺学童保育指導員労働組合が株式会社CLCに対し、労働条件が不明確であるため書面で労働条件を示すように求める手紙を送付し、2月2日に面談して労働条件の疑問点について確認したところ、2月3日、本件の当事者に対して採用拒否の通知がなされました。

3 大阪府労働委員会での闘い

2017年4月、不利益取扱い(組合員であることを理由に継続雇用を拒否)及び団体交渉拒否を理由として、大阪府労働委員会に救済申立てをしました。

府労委では、①株式会社CLCが当該組合員の労働組合法上の使用者に当たるか、②継続雇用を拒否したことが組合員の不利益取扱いに当たるか、③団体交渉申入れに対する拒否が正当な理由のない拒否に当たるか、が争点となりました。

2019年1月8日、府労委命令は、①に関し、株式会社CLCと当該組合員との間で労働契約は成立していないと認定したうえで、「近い将来において労働契約関係が成立する可能性が現実的・具体的に存していたか否か」という問題の立て方をしました。そして、組合員が承諾しさえすれば会社に雇用される状況にあったとみることはできず、また、保護者会や委託元が継続雇用を要望していたからといって、会社が雇用を義務付けられるものではなく、雇用関係の承継に等しいものということはできないとし、「近い将来において労働契約関係が成立する可能性が現実的・具体的に存していたということはできない」と認定し、株式会社CLCは当該組合員の労働組合法上の使用者に当たるとはいえない、と判断しました。その結果、②の不利益取扱いや③団交拒否の争点については「判断するまでもなく」申立てを棄却しました。

4 中央労働委員会での闘い

本件府労委命令に対し、中央労働委員会に再審査を申し立て、現在、中労委での闘いが進行中です。

5 最後に

本件を聞いて、のびのびルームの運営事業者が3年に1度交代するというプロポーザル方式そのものの問題点を非常に感じました。株式会社CLCが選定されてからもうすぐ3年が経ち、2020年4月には、のびのびルームの運営事業者が再度選定されます。

このままでは、労働者である学童保育指導員の地位が極めて不安定になると同時に、保護者や子どもから見ても3年に1度学童保育の先生が変わり、学童保育の継続性が失われ、保育の質の低下につながってしまうと思われます。

中労委での逆転を期待しています。

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