民主法律時報

「常識」への挑戦――年頭のごあいさつ

会長 萬井 隆令 

 憲法は国家の最高法規であり、ある時の政府の意向で変更できるようなものではないこと、海外派兵が憲法違反であることは確固たる「常識」であった。ところが安倍内閣は、法制局長官を更迭した上で、閣議決定でその常識を覆し、戦争法を国会で成立させた。自民党政府は国際社会からの要請に応え、必要な後方支援(兵站)をするためには自衛隊の海外派兵もやむなし、というが、その「国際社会」は、図解でも星条旗が翻る軍隊に物資を運ぶ自衛隊が描かれていたように、実際にはアメリカ政府・軍のことであり、戦争法はアメリカの戦争に巻き込まれる危険を推し進めた。
従来は、一度成立した法律を廃止することは無理だというのが一般の「常識」であった。しかし、それを甘んじて受入れることはできない。今、戦争法廃止を目指す点で一致する政府を作ろうという運動が呼びかけられ、広がっている。その発想を「常識」として広め、ぜひとも成功させ、一日も早く、戦争法を廃止しなければならない。

沖縄の普天間基地は住宅や学校がすぐ傍にあり、世界一危険な基地だというのは「常識」のようだ。しかし、基地そのものは分厚いコンクリートに覆われた土地でしかない。それ自体が危険なわけではなく、危険なのはそこでオスプレイやヘリコプターを離・発着させて戦争に備えた演習をやるからだ。代替に辺野古に今より広い基地を作れば、より大きな危険と騒音がそこに移転する。その演習をやらなければ、普天間でも辺野古でも危険は直ちになくなる。
結婚すれば夫婦は同一の姓を名乗るものだ、結婚は男女がするもので、同性がするなど異常だといったことも長く「常識」であった。それは今や疑われつつある。
ホワイトカラーの仕事の成果は労働時間数では測れないから、法定労働時間制の適用除外(エグゼンプション)を認めるべきだとか、解雇無効を争って裁判で勝っても実際には職場には復帰できないから、一定額の金銭を支払えば労働契約を解消できる解雇の金銭的解決の制度化は労働者にとっても利益があるという考え方を「常識」化させようとする動きは根強い。しかし、ホワイトカラーも一定の時間内の仕事の成果を問うことにすればエグゼンプションは必然ではないし、裁判で解雇無効とされた労働者を職場に復帰させない使用者の我儘を起点にする金銭的解決制度は偏っている。
偽装請負の場合、発注者と下請け業者の従業員は事実上の使用従属関係にあるから、直接雇用の原則に照らし、両者の間に黙示の労働契約関係が生じていると労働法研究者の多くは理解するが、松下PDP事件・最高裁判決以降、下級審ではそれを否定することが「常識」化し、それ以上のことは考えない、恐ろしいほどの思考停止状態になっている。

世の中には様々な「常識」がある。「常識」は往々にして時の権力者に都合の良いものが含まれ、作られ、流布されるから、私達はそれを一度は疑ってかかる方が良い。一つ一つ自分の頭で考えて、反動的な「常識」は勇気をもって捨て去り、社会の進歩や生活の改善・安定に貢献する「常識」は残し、無ければ創造し、広めて「常識」化する。思想動員という言葉もあるように、そうすることは一つの闘いでもある。今、大らかで力強い「常識」への挑戦が求められている。

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