会長 萬 井 隆 令
どこに向けて良いのか判らない憤りや落胆を感じながら、総選挙の開票速報を見ました。ただ、議席数には大差がつきましたが、比例代表区では総数180議席のうち自民党は 議席( 31.7%)でしかなく、反対に、小選挙区では当選者のなかった共産党が8議席(4.4%)、2議席の未来が7議席(3.9%)を得ています。いかに、小選挙区制が制度として民意を反映しない不公正な制度か、を物語っています。それに対する批判の声も上がっているようで、熱の冷めないうちに選挙制度の改革を迫る必要を感じます。
その後の調査では「民主政権に失望」が81%(朝日新聞12月19日)。それが今回の選挙の基盤であったようです。たしかに民主党は、3年前の政権交代にかけた国民の期待からは程遠い政策に終始しましたから絵に描いたような惨敗を喫したと言わざるを得ません。自民・公明が連携し、それに維新が協力する政権の下で、基地問題でも原発問題でも、さらには憲法問題でも、今後、小泉政権とは少し趣向が異なった復古調で反国民的な動きが出てくることが予想されます。しかし、先の調査では「自民の政策を支持」は僅か7%(自民支持層でさえ13 %)でした。国会の中で議院の構成は激変したとしても、国民の眼はある意味では堅実です。
そういう状況を見据えながら、私たちは大阪府・市が次々繰り出す無法な政策を止める闘いや非正規労働者の闘い、JALや電気産業の大量解雇に対する反対運動を力強く進め、公職選挙法の改正や過労死防止法の制定などで打って出る必要があります。
昨年は労働契約法および派遣法の注目すべき改正が行われました。
改正労働契約法は、既にJR東日本や喫茶チェーン・ベローチェに現われているような「有期雇用不安定化法」となるのか(和田肇・労働判例1054号)、有期雇用労働者の権利の前進に有益・有効な法的基盤となるのか(東海林智・毎日新聞11月5日)。私は使い方次第の諸刃の剣と見ています。
不合理な労働条件の「相違」を禁止する20条は、自動的に効果を発揮してくれるものではありませんが、団体交渉や裁判の場での使い方次第で、実質的な有期雇用の入口規制および同一労働同一処遇の原則として機能する可能性をもっています。また付則2条があるので、18条の無期契約への転換のみなし制が直ちに適用されるわけではないとしても、既に施行されている19条を直ぐにでも援用して有期契約を更新し続け、5年後の無期契約への転換みなし制の利用に繋げば、現実には5年の猶予はないに等しい状況を創り出すことも不可能ではありません。厚生労働省の「有期契約労働者にあらかじめ無期転換申込権を放棄させること…法第18条の趣旨を没却するもので…有期契約労働者の意思表示は、公序良俗に反し、無効と解される」とする2012.8.10通達(第5―4―(2)―オ)も活用できます。
紆余曲折があったとはいえ、派遣法は、派遣対象業務以外の派遣、派遣可能期間を超えた派遣、偽装業務請負などを行った場合、「その時点において」派遣先は当該労働者に「労働契約の申込みをしたものとみなす」と規定しました(40条の6第1項)。違法派遣の場合、派遣先が直接雇用するという形で立法的に問題解決を図ったわけで、施行が3年先だという問題はあるにせよ、これまで日本にはなかったシステムであり、画期的であることは間違いありません。
有期雇用や派遣という形で働く非正規労働者を正規化しようとしても、これまでは使用者が抵抗する場合には裁判所の判決に期待を掛ける以外にありませんでした。今回、正規化を使用者に強制する(少なくとも、派遣先は「労働契約の申込みをした」ことを否定はできない)ことを、法律の条文という確固たる足掛かりを曲がりなりにも創りだしたわけで、非正規労働者の正規化の運動に大きな支えを提供するものです。
ただ、労働契約法の18条による無期契約への転換にせよ19条による有期契約の更新にせよ、労働者の申込みが条件となっているので、その条文を活かすためにはまず「申込み」をする必要があります。しかし、彼・彼女らの努力だけでは企業の壁を突破することは至難なことで、個々の非正規労働者だけでは「申込み」さえ無理なこともあるかもしれません。したがって問題は、労働組合がそれらの規定を活用する視点を持ち、方針化し、それを実現する状況を自ら創りだし得るのか、に掛かっています。ますます労働組合の存在意義が鋭く問われることになるとともに、民主法律協会の真価を発揮することが期待されています。
『マクベス』の中の「明けない夜はない」はやや消極的な、待ちの訳で、本来は、「朝が来なければ夜は永遠に続くからな」と、奮起を促す趣旨だと誰かに聞きました。不利な状況と有利な条件、その中で、条件を活かし有利な状況を自ら創りだすことへ大きく踏み出しましょう。「朝が来なければ夜は永遠に続くから」。