国政進出を企む橋下・維新の会への反撃の書
評者・弁護士 増 田 尚
橋下徹・大阪市長は、9月、国政進出の母体となる政党「日本維新の会」を立ち上げ、「近いうち」に行われるとされる総選挙に向けて活動を始めた。その綱領(と呼ぶにはあまりに未成熟だが)となる「維新八策」には、橋下市長が地域政党「大阪維新の会」として強行してきた大阪府・市における様々な政策や制度を国の法制度にまで押し上げることがうたわれている。特に、行財政「改革」や、職員基本条例をはじめとする地方公務員制度、教育関係条例に見られる公教育「改革」については、大阪をモデルケースとして法制化することとされている。
日本維新の会に対しては、「決められない」民主・自公の政治に対するアンチテーゼとして、閉塞した経済状況を打開する救世主として、バブル的ともいわれる期待が寄せられていたが、徐々にそのバブルもはじけつつある。しかし、今なお、橋下市長のメディア戦略は奏功しており、高い人気を維持している。民主勢力の批判も、いきおい、その政治手法に集中するが、橋下・維新の会が大阪府・市で何をしてきたのかという実像については、期待する側・反対する側とも、的確に把握できていないうらみがある。
編者である鶴田廣巳・関西大教授(大阪自治体問題研究所理事長)は、同研究所に、「大阪発・地域再生プラン研究会」を立ち上げ、こうした橋下・維新の会の政策を検討してきた。その結果をとりまとめて、橋下・維新の会が目指す「改革」の実像を明らかにするために緊急に出版したのが本書である。
鶴田教授は、大阪市が策定した「市政改革プラン」の反市民性と反人権性を暴露することを通じて、「大阪維新」の政治的本質が人権、地方自治、民主主義の危機にあると指摘する。
この分析を受けて、「地方自治の危機」を鋭く指摘する森裕之・立命館大教授、中山徹・奈良女子大教授、城塚健之弁護士、初村尤而氏、柏原誠・大阪経済大准教授の論攷が続くが、橋下市長が府知事時代から実行してきた開発戦略を並べて、失敗を繰り返している事実を突きつける中山教授の論述には、私たち自身も「くるくる王子」と揶揄されつつも次々と新奇さを打ち出す橋下市長の手法に眩まされていたことを思い知らされずにはおれない。また、城塚弁護士は、職員基本条例に見られる職員管理支配や、公務員・公務員組合に対する執拗な攻撃の非民主性、反人権的な問題を浮き彫りにする。初村氏は、「市政改革プラン」に見られる関―平松市政との連続性を指摘し、橋下市長のトップダウンのもとで問題が深刻化することを懸念する。
橋下・維新の会の「改革」の弱点が、基本的人権の尊重や、地方自治の本旨、民主政といった根本理念に反する点にある。本書のサブタイトルにもあるとおり、「人権・地方自治・民主主義の危機」に立つ中で、私たちがなすべきことは、愚直に、「人権・地方自治・民主主義」の価値を実践することにある。全国に波及しつつある「維新の会」あるいは「維新の会」的な政治勢力と対峙するためには、本書を読み、橋下・維新の会の実像を把握する必要があるといえる。
自治体研究社 2012年9月10日発行
定価 1575円(税込み)
本書ご注文は大阪自治体問題研究所へ TEL 06-6354-7220 FAX 06-6354-7228