民主法律時報

かえせ☆生活時間プロジェクト大阪フォーラム準備会

弁護士 中 西  基

1 はじめに

「かえせ☆生活時間プロジェクト」は、浅倉むつ子(早稲田)、浜村彰(法政)、毛塚勝利(元・中央)、唐津博(中央)、長谷川聡(専修)、圷由美子(弁護士)が発起人となって、2015年3月6日に東京で設立準備シンポジウムを開催し、4月27日は東京フォーラムを開催しています。
大阪でもフォーラムを開催できないかと呼びかけがあり、6月28日に準備会が開かれましたので、ご報告します。

2 問題提起①(浜村彰さん)

はじめに、プロジェクトの発起人の1人である浜村彰さんより、「なぜ今、かえせ生活時間なのか」という視点から、プロジェクト設立の趣旨等について説明がありました。

日本の労働時間は、1987年の労基法改正により週40時間制が導入されから以降、統計上は、短縮しているように見えます。しかし、それは短時間労働者の増加による影響が大きく、一般労働者の労働時間は年間2000時間前後とまだまだ長時間労働です。

国会に提出されている労基法改正法案の最大の特徴は、「高度プロフェッショナル制度」の導入によって労基法の時間保護が及ばない労働者を拡大させようとする「働かせ放題」の法案だということです。現行の労基法  条の管理監督者には出退勤時間の裁量権があり、2007年に法案要綱まで策定されたホワイトカラーエグゼンプション(自己管理型労働)にも働き方の自由がありました。ところが、今回の改正案は、「業務遂行の裁量権」には一言も触れていません。
これでは、労働者がまっとうな家族生活や社会生活を営むことはできませんし、配偶者や子ども、地域社会に大きなしわよせを及ぼすことになります。

いま求められているのは、人間らしい普通の生活を営む権利を守ることです。「かえせ生活時間」を提起したのは、そうした運動を幅広く呼びかけたいと思ったからです。残業したら、残業手当を支払わせるというよりは、時間で取り戻す制度、あるいは、生活時間確保の観点からの労働時間法制度のあり方などについても考えていきたいと思っています。

3 問題提起②(渥美由喜さん)

内閣府少子化危機突破タスクフォース・政策推進チームリーダーである渥美由喜さんより、ワーク・ライフ・バランスから考える労働時間法制改悪の問題というテーマでお話いただきました。渥美さんは、外資系IT企業で管理職として働く妻と共働きで、2人の子どもを育て、また、実父を介護されています。また、下の子どもさんには難病がおありとのことです。

まず、改正法案では「成果に応じた報酬」について一言も触れられていません。それなのに、今回の法案であたかもそれが実現できるように宣伝するのは詐欺に近いのではないでしょうか。

パートナーのキャリアも、子どもと過ごす時間も、介護や看護の時間もすべて誰かに押し付けて、24時間365日仕事だけをこなす人生でよいのかが問われています。仕事以外のオフの時間はイノベーションの源泉でもあります。新しいビジネスのニーズやシーズは現場にあります(職場にはありません)。これからの人口減少社会では、職業人・家庭人・地域人と一人三役をこなさなければなりません。必然的に効率のよい生産性の高い働き方が求められます。仕事も重視・高密度、生活も重視・高密度の「イキイキ社員」を増やさなければならないのに、今回の改正案は、時間という制約を外してしまいます。生産性が高いかどうかは時間という分母があってこそ把握できるものです。

いま求められているのは、如何にして効率的に働くか、キャリアとライフを両立させるかです。

4 意見交換

お二人の問題提起を受けて、会場の参加者で意見交換しました。西谷敏先生(大阪市立大学名誉教授)や森岡孝二先生(関西大学名誉教授)も参加され、活発な意見交換が行われました。
以下は、当日の意見交換を踏まえた筆者の感想・意見です。

戦前の女工哀史の時代から、日本の長時間労働の実態はほとんど変わっていません。今でも日本には1日16時間働いている人が少なからずいて、男性フルタイム正社員の実労働時間は週53時間、年2700時間です。なぜ、日本人はこんなに働くのか。なぜ、日本の労働者は、労働時間短縮よりも、割増賃金を優先するのか。そこを解明しなければならないのではないでしょうか。

また、日本の男性中心の企業社会、性別役割分担が強固に根づいている日本社会においては、そもそも男性労働者には生活時間というものが存在していなかったとも言えます。大阪では1990年代に「アフター5の会」の取り組みがありました。「アフター5は自分と家族のもの」というスローガンで、男性労働者も生活時間を創り出そうという取り組みでした。ただ、バブル崩壊とその後のリストラの嵐のなかで、労働組合のなかでは、時短を求める運動が下火になってしまいました。

いま国会に提出されている労働基準法改正法案は、もはや労働者や労働組合だけの問題ではありません。労働者の健康や余暇が削られるだけでなく、家族の時間が奪われ、今よりもさらに家事負担が偏ることになります。親の介護や地域での交流もできなくなります。国民生活の様々な局面に大きな影響を与える問題です。この法案に反対する運動は、普通の市民の視点からの広がりをもった運動にしなければなりません。職場で労働時間をどう減らすのかという運動ではなく、生活者として生活時間をどう取り戻すのかという切り口で、誰もが生活者の立場から対等に声を上げることができるような運動が求められているのではないでしょうか。キーポイントは、運動の「担い手」だと思います。

かえせ☆生活時間プロジェクトは、生活時間という観点からあらたな時間政策法規制のあり方を考えるべきだという重要な問題提起をしています。これに応えて全国各地で、生活者の立場から労働時間規制を考える場をつくっていくことが必要ではないでしょうか。

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