民主法律時報

奈良教育大学附属小学校不当出向命令 無効確認訴訟の和解報告

弁護士 兒玉 修一

1 はじめに

奈良教育大学附属小学校(以下「附小」という)に勤務する教諭ら3名が、2024年4月1日、奈良県下の公立学校への出向を命じられたこと(以下「本件出向」という)に関し、同年6月12日、上記出向が無効であることの確認等を求め、奈良地方裁判所に提訴したことは、昨年、報告している(2024年7月15日)。今回は、同訴訟について、2025年8月7日、和解が成立したので、その報告である。

2 訴訟の経過と原告らの附小への復帰

まず、訴訟の経過であるが、2024年9月10日、第1回の弁論期日が開かれ、予想通り、①そもそも、被告は、本件出向を命じることができるのか、②仮に、①が認められたとしても、その必要性があるのか、出向命令権の濫用ではないのかについて、原被告間で議論されることになった。ここで補足しておくと、和解の成立まで6回の弁論期日が開かれたが、その度に、奈良地方裁判所で最も大きな法廷の傍聴席を、全国から駆けつけた支援者らに埋めていただいた。これは、原告らに対する励ましとなったことは勿論、審理を担当する裁判所にも事件の重大さ、関心の高さを印象づけることになったと思われる。そして転機となったのは、2025年4月1日のことになる。結論からいえば、既に報道もされている通り、同日をもって、原告らは、全員、当初の予定を大幅に短縮し、附小での職務に復帰することになった。一応、原告らの体調不良に配慮した結果とされているが、今回の訴訟の最大の目的が達成されることになったことには変わりがない。また、原告ら以外の教員の強制的な出向についても取りやめとなった。

ここで、訴訟の構造としては、一応、慰謝料請求も行ってはいたものの、最も重要な部分について肝心な訴えの利益が消滅する形となってしまった。裁判所からも和解の働きかけがあり、弁護団としても、これに応じる方向となった。

3 和解の成立

同日以降は、原被告ともに主張立証は継続しながら、和解による解決も模索されることとなり、上記の通り、和解が成立するに至った。和解の内容としては、①被告において、本件出向に至る準備期間が十分でなく、情報提供にも一部不正確な点があったことを認め、原告らが体調を崩すことになってしまったことについて、今後の人事異動の際に、十分に考慮すること、②さらに、被告においては、労働関係諸法規を遵守し、労働者としての人権を尊重し、教員らの希望や健康に配慮することを確認するものとなっている。

4 積み残された課題

本訴訟の最大の目標は、原告らの附小への復帰、さらに原告ら以外の教員に対する意に沿わない出向の阻止にあったので、これについて「判決」という明確な形ではないが、何とか達成することができたのではないか。弁護団の方針としても、国立大学法人の教員を、その同意もなく、全く法体系の異なる公立学校へ出向させるという相当強引なやり方が、労働法的に許容されないのではないかという点をメインの論点として設定し、議論を展開してきたという経緯もあった。

一方で、その結果として、学習指導要領の法的拘束力の範囲の如何や、そもそも附小において学習指導要領に反するような教育がなされていたのか、教科書の使用義務違反があったのか、さらに、文部科学省からの圧力というのは実際どうだったのかといった教育法的な論点については、最終的な結論を得るには至らなかった。この点については、完全に「積み残し」となってしまい、今回の訴訟を応援していただいた教育界の皆さんの期待にお応えできなかったのは残念である。今後、現場において、さらなる議論が展開されることを期待したい。

(弁護団は、中村和雄、宮尾耕二、畠中孝司、及び当職)

 

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