決議・声明・意見書

意見書

労働組合の街宣活動禁止等仮処分事件の係属部についての申入書

2012年10月5日

大阪地方裁判所長 殿

民 主 法 律 協 会 
会 長 萬井 隆令

 民主法律協会は、1956年6月、平和・民主主義・国民の権利を守り、発展させることを目的として結成し、現在では、大阪を中心に、弁護士・学者・研究者ほか約400名、労働組合・市民団体約170団体を擁し、人権と民主主義を守るための活動を幅広く行っている団体である。
 とりわけ、労働事件についての取り組みが当協会の活動の大きな柱となっており、各種の労働問題、課題等について、研究と実践を重ねてきた。
 今般、当協会会員弁護士や労働組合等から寄せられた意見を集約したところ、労働組合の街宣活動禁止等仮処分事件の係属部について、御庁の事件配填は大きな問題点を孕んでいることが浮き彫りになった。
 そこで、当協会は、以下に問題点を指摘するとともに、その改善をはかるために、意見を申し入れる。

第1 申し入れの趣旨

 労働組合の街宣活動禁止等仮処分事件は、憲法28条の労働基本権を主たる争点とし、また、労働組合活動の根幹にかかわる重大な問題であるため、第1民事部ではなく、労働事件の専門部である第5民事部に配填されるよう求める。

第2 申し入れの理由

 現在、大阪地方裁判所では、地位保全や賃金仮払い等のいわゆる労働仮処分事件については、労働事件の専門部である第5民事部に配填されるが、労働組合の街宣活動禁止等を求める仮処分事件については、第5民事部ではなく、一般民事保全事件を扱う第1民事部に配填されることが多い。
 しかし、労働組合の街宣活動禁止を求める仮処分事件は、被保全権利が使用者の人格権や営業権等ではあっても、憲法28条の労働基本権に関わる重大な問題であり、また、事前検閲に類する事前差止め事件という極めて重大事件である。それにもかかわらず、労働事件を専門的に扱う第5民事部ではなく、労働事件の日常的経験を欠く第1民事部に配填することは不適切であると考える。

 第1民事部の横田典子裁判官は、2011年5月11日、北港観光バス株式会社が、全日本建設交運一般労働組合の街宣活動禁止等を求めた仮処分事件において、労働組合の街宣活動を禁止する仮処分決定をした。
 同事件は、北港観光バスで勤務する全日本建設交運一般労働組合の組合員4名が、雇止め、配車差別、出勤停止処分、配転などを受け、これらの処分に関する訴訟は第5民事部に係属していたにもかかわらず、労働組合がその処分に抗議する目的で、本社周辺及び営業所周辺において、4日間、各日約15分間の宣伝活動の禁止を求める事件のみが第1民事部に係属した。このような労働組合の街宣活動は、憲法28条で保障された正当な組合活動そのものであり、従来の裁判例(全労連府中地域合同労働組合(トラストシステム)事件東京地裁平成19年9月10日判決・労働判例953号48頁、住之江A病院(退職金等)事件御庁平成20年3月6日判決・労働判例968号105頁等)でも認められてきた。また、仮処分を申し立てた会社自身がその不当性を認めて、後に異議審において申立を取り下げなければならないほどのものであった。
 それにもかかわらず、横田裁判官は、労働組合活動の意義、重要性をまったく理解せずに、労働組合の街宣活動を禁止する仮処分決定をしたのである。しかも、同決定は、証拠を十分に吟味することなく、決定の理由も一切示されておらず、前代未聞の決定と言わざるを得ない。

 民事保全法16条は、「保全命令の申立てについての決定には理由を付さなければならない。ただし、口頭弁論を経ないで決定する場合には理由の要旨を示せば足りる。」と規定する。
 しかし、労働仮処分については、争点が複雑であり、当事者間の対立も激しいことから、民事保全法制定時に、「保全命令の申立てについての決定に付する理由の要旨については、事案の性質に応じた適切な運用を期し、当事者の訴訟上の利益を損なうことのないように配慮されたい。」との参議院付帯決議がなされた。
 そして、御庁第1民事部では、この付帯決議に従い、労働仮処分の決定は、判決とほとんど同じ程度に理由が記載されてきたが、上記決定は、憲法28条の労働基本権が争点となる重大な事件であるにもかかわらず、理由もその要旨も示さない恐るべき決定なのである。

 しかし、この決定を、裁判官個人の資質の問題として処理することは妥当でない。
 御庁では、1999年3月まで、労働仮処分は第1民事部に配填されており、第1民事部では、多くの労働事件を扱うため、第1民事部の裁判官は、解雇事件も労働組合の街宣事件も担当し、労働事件に精通していたのである。ところが、御庁では、1999年4月から、労働仮処分はすべて第5民事部に配填されるようになり、その後2006年から、労働組合の街宣活動禁止等仮処分事件だけが、以前と同様に原則として第1民事部に配填されるという事件配填になった。
 その結果、第1民事部では、労働組合の街宣活動禁止等仮処分以外の労働仮処分を担当しないことになり、これまでの第1民事部における労働仮処分の適正な運用を知らず、また、労働事件の知識と経験をも失い、労働組合の街宣活動禁止の仮処分事件について、労働事件としての感覚を失い、一般民事保全事件として判断する裁判官が増えることになり、それが上記の不当な仮処分決定につながった大きな要因でもある。

 このように、一般民事保全部と変化した大阪地裁第1民事部の現状にかんがみれば、憲法28条の労働基本権を主たる争点とし、労働組合活動の根幹にかかわる重大な問題である労働組合の街宣活動の禁止等を求める仮処分事件について、第1民事部に配填することは妥当でなく、今後は地位保全や賃金仮払い等の仮処分事件と同様に、労働事件の専門部である第5民事部に配填するよう強く求める。

以 上

 

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