《書籍紹介》『過労死落語を知っていますか』を読んで、「落ちる」もの

2019年04月15日

弁護士 豊川 義明

 桂福車(落語家)、松井宏員(毎日新聞夕刊編集長)両氏の表題の本を読んだ。この本は、第一部が松井氏による「過労死落語」が出来るまでの由来書きである。この由来書きによって大阪を中心とする過労死裁判事件のこれまでの取組、2014年6月の過労死防止法の成立と2018年6月「働き方改革法」の成立をめぐる過労死家族の会の寺西笑子さん、平岡チエ子さん、佐戸恵美子さんらの未来のための懸命な活動、そして私も親しい笑工房の小林康二さんの活動の原点と憲法漫談のエッセンスも紹介される。松丸正、髙橋典明、岩城穣の各弁護士も登場する。

全国に先んじて大阪の地で過労死問題が取組まれたのは、1981年の『大阪急性死等労災認定連絡会』であった。故田尻俊一郎医師(西淀川社医研)や松丸、髙橋弁護士らの研究と実践的な運動体の誕生である。心臓や脳の疾患によって突然に労働者が亡くなるので、当時は急性死と言われていた。過労死家族の会の方々の過労死防止法の制定、そして安倍働かせ方改革法案に反対する、それこそ命がけの献身的な、現在の労働者と未来社会への連帯行動に対して私は深い敬意を抱いている。労働者ではない、その家族の皆さんが現在の労働社会に対し強い警鐘を鳴らされているのだ。その心、意思の深さと広さに感じることのない人はいない筈である。だから安倍首相は家族の会との面談から逃げたのである。

 第二部は桂福車さんの「エンマの願い」(作・小林康二)である。第一部に紹介のあった作家の小林康二さんと桂福車さんとの「打合せ」や「手見せ」の厳しいやりとりが紹介されているので、この創作落語は現実の寄席を聞いている様によくわかる。

閻魔の庁に過労死で亡くなった人が青鬼、赤鬼(なぜか28号とある)とやりとりをする。生者の現在を写す「浄波璃の鏡」が持ち出され過労死家族の国際活動も写しだされるとともに亡くなった人の母親(白髪となり痩せてしまった)の現在が写しだされる。母親への息子の言葉がけに思わず鬼が泣いてしまう(福車さんも演じつつ必ず泣く)。その内、エンマ大王によって過労死で亡くなった人専門の窓口に指名された赤鬼28号、青鬼31号も過労のため倒れてしまう。そこで岩鬼が大王に呼ばれ、岩鬼とその仲間が家族の会とともに戦う過労死弁護団になるという「落」語である。

桂福車さんは、落語を通じて伝えたい「過労死防止」の大切さという題名の下に、落語を通じての世の中へのメッセージの意味について、過労死などの原因や労基法など重い内容でも「落語にすると、わかりやすいので印象に残る、楽しみながら勉強にもなるはずです」、「共鳴とか感激とかは理屈でなく文化の成せる力」であるとして伝統芸能としての落語力の有用性を強調している。

確かに『エンマの願い』は、この物語りの「落ち」より以上に読む者(福車さんの声がきけるCDがないので)にエンマ大王と過労死家族の会の願いである「20??年過労死ゼロの達成にむけての運動の大切さ」を私達の肚に「落とす」のである。

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