民主法律時報

「軽い言葉」と「重い現実」 <新年のごあいさつ>

会長 萬井 隆令

このところ、「重い現実」であるにもかかわらず、「軽い言葉」で語られることが多いように感じる。一部の若者や芸能界のことなら放っておけばよいのだが、政治や社会の問題となると、必ず「裏」があるから、そういうわけにもいかない。

『駆け付け警護』のために、遂に、日本の軍隊(自衛隊)が南スーダンへ出発した。「警護」というが、武力行使になるに違いない。素人でも現場を想像してみれば、ある集団がA部隊から武力攻撃を受け、自力では防御ないし排除できない状況で、自衛隊は「駆け付け」てA部隊を排除することを要請される。話し合いで撤退するわけがないから、武力による排除が必至となる。攻撃されているのが国連のPKO、攻撃しているのが南スーダン政府軍だとすれば、それは日本と南スーダンの正規軍同士の戦闘、すなわち「戦争」そのものではないか。これほど「重い現実」はない。そうなる可能性がかなり大なのに、「駆け付け警護」といった軽い言葉を使っていて良いのか。「戦闘」を「衝突」、「墜落」を「不時着」なども同類である。

『カジノ』。安倍首相は、遊園地やホテルを含む民間によるIR(Integrated Resort)を認める法律だ、といって、何故、それにカジノを含むのかには答えない。カジノというと、ラスベガスやマカオをイメージすることが多いが、彼らは「小さく生んで大きく育てる」ことが得意だから、解禁されると、やがてはアメリカのように、各地に立つことになりかねない。アメリカを車で旅行中に、食事のために高速道を降りると、レストランや給油所の横にカジノがあり、長距離トラックの運転手が入っていくのを何度か見かけた。仕事中にそれだから依存症なのだろうが、賭博とはそういうものだと認識すべきで、IRといった綺麗事で誤魔化されてはなるまい。そもそも、博奕で稼いだ金で経済を…なんて、マフィアがやることではないか。

自民党や経団連には、労働者の権利は「既得権益」、労働法は「岩盤規制」に映るようだが、安倍首相は2年間で「岩盤規制」を「ドリル」で破る、と公言した。国際会議の場で一国の首相の発言としてなんとも品性に欠けるが、労働者の権利を尊重するようなことは考えない、という宣言で、内容は実に重い。既に国家戦略特区に相談センターを開設し、『雇用指針』を策定し、2015年9月には労働者派遣法を改悪し…と、実行されつつある。解雇の金銭的解決制度を解雇された人の「救済」と言い、ホワイトカラー・エグゼンプションを時間によっては成果を評価できない労働者にとっての「自由な働き方」と言い。労働法制の改悪のプログラムは続いている。安倍首相は、重いことという自覚がないから、そのように「軽々しく」言い、また自分の言葉に酔っている風もある。

今年も、「軽い言葉」が意味する「重い現実」の実体を掴み、それと正面から向き合い、おおらかに闘うことが求められている。

民主法律時報アーカイブ

アーカイブ
PAGE TOP