民主法律時報

労働相談入門講座「精神障害と労災請求の実務」

弁護士 喜 田 崇 之

1 はじめに
 6月18日午後6時30分より、民法協新人歓迎学習企画「労働相談入門講座」が開催されました。講師に立野嘉英弁護士を迎え、「精神障害と労災請求実務」と題して、約2時間の講演となりました。
 参加者は、弁護士、労働組合、一般の方を併せて合計29名で、非常に素晴らしい企画となりましたので、ご報告致します。

2 講演の内容
 立野先生は、まず、平成23年12月に改定された「心理的負荷による精神障害の認定基準」の内容をお話されました。
 例えば「強い心理的負荷と認められる出来事の前と後の両方に発病の兆候と理解しうる言動があるものの、どの段階で診断基準を満たしたのかの特定が困難な場合には、出来事の後に発病したものと取り扱う」とされた点や、「いじめやセクシャルハラスメントの場合には発病前6カ月よりも前に開始されていて、発病前6カ月以内の期間にも継続している場合には、開始時からの全ての行為を評価の対象とする」等、労働者側に有利となる新しい認定基準の注意ポイントや、これまでの認定基準と比べて違っている点などを中心に解説されました。また、長時間の時間外労働との関係や、具体的な出来事の評価・判断方法等など、幅広く重要なポイントを解説されました。
 また、時には、立野先生の豊富な実務経験から得られた実務上のポイント等も交えられていました。
 そして、依頼者との打ち合わせ等において注意すべき点にも話が及びました。例えば、相手のペースで話してもらいよく聞く姿勢が大事であるが、他方で同調しすぎず、客観的な法律的見解を伝えることも重要である等という話もして下さいました。また、できる限り直接面談し、友人等のサポーターにも同席してもらう等、依頼者の負担を十分に踏まえつつ、慎重に手続きを進めることが重要であると話して下さいました。依頼者は、個人で会社相手に訴訟等の法的手続きに踏み切ることは非常にハードルが高く、係争状態に置かれること自体が大きな心理的・社会的ストレスになり、相談を聞く側はそのことを常に意識しなければならないことを確認させられました。
 立野先生の講演が一通り終了した後、質疑応答の時間となりました。たくさんの質疑が出て、非常に内容の濃いものとなりました。難しい内容でしたが、皆さんが熱心に立野弁護士のお話に、メモを取られているのが印象的でした。
 そして、最後に、立野先生は、精神障害と労災請求の実務は、多くの弁護士が避けたいと思う分野かもしれないが、精神障害・自殺事案は急増しており、この分野の法律相談も増えているので、労働者の真の救済のために、労災認定基準を正確に理解することの必要性を訴えておられました。また、初めて事件を扱う方のために、もし困ったことがあれば連絡してくれれば力になるという、温かいお言葉もありました。
 学習会の後、近くの居酒屋で懇親会が開かれました。

3 今後
 さて、民法協主催の新人歓迎学習会は、労働者を守るための様々な法的な知識を多くの方に知って頂くとともに、民法協の存在や理念をより多くの方に知ってもらい、新人会員を増やすことを目的にしていました。ただ、会社側代理人事務所の方の参加も多く、果たして目的にかなった企画になっているかどうかという議論もありました。
 そこで、今後は、労働相談懇談会とともに学習会を開催することを検討しています。次回は、夏頃を予定しており、高年法の実務上の問題や法改正の動き等について、中村里香弁護士がお話をする予定です。
 また、詳細が決まりましたらご案内いたしますので、ぜひご参加ください。

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