TPPリポート② TPPとその関連する協定について

2012年04月25日

弁護士 中 島  宏 治

1 はじめに
 TPP(環太平洋経済連携協定:Trans-Pacific Partnership)を議論するにあたって、関連する協定等についての理解が不可欠であると思われる。WTO、FTA、EPAという用語が頻繁に出てくるので、その用語の基本的理解を促すのが本稿の目的である。

2 WTOとは
 WTO(世界貿易機関:World Trade Organization)は、自由貿易促進を主たる目的として創設された国際機関である。常設事務局がスイスのジュネーブに置かれている。
 現在の加盟国数は157(現在加入申請中の国は  )。アメリカ、日本、韓国、ヨーロッパの主たる国は原加盟国であり、中国は2001年12月、台湾は2002年1月、ロシアは2011年12月にそれぞれ加盟した。
 もともと、GATT(関税及び貿易に関する一般協定)ウルグアイ・ラウンドにおける合意によって、世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(WTO設立協定)に基づいて成立したもので、1995年1月1日にGATTを発展解消させて成立したとされる。
 WTOはGATTを継承したものであるが、GATTが協定(Agreement)に留まったのに対し、WTOは機関(Organization)であるのが根本的な違いである。
 WTOは、①自由(関税の低減、数量制限の原則禁止)、②無差別(最恵国待遇、内国民待遇)、③多角的通商体制を基本原則としている。物品貿易だけでなく、金融、情報通信、知的財産権やサービス貿易も含めた包括的な国際通商ルールを協議する場である。
 新多角的貿易交渉(新ラウンド)は、2001年11月にカタールのドーハで行われたWTO閣僚会議で開始を決定し、ドーハ・ラウンドと呼ばれていた。2002年2月1日の貿易交渉委員会で新ラウンドがスタートした。しかし、9年に及ぶ交渉は、先進国と急速に台頭してきたBRICsなど新興国との対立によって中断と再開を繰り返した末、ジュネーブで行われたWTO閣僚会議(2011年12月17日)で「交渉を継続していくことを確認するものの、近い将来の妥結を断念する」(議長総括)となり事実上停止状態になった。
 このようなWTOの行き詰まりから、FTA、EPAの動きが加速したとされる。

3 FTAとは
 FTA(自由貿易協定:Free Trade Agreement)とは、物品の関税、その他の制限的な通商規則、サービス貿易等の障壁など、通商上の障壁を取り除く自由貿易地域の結成を目的とした、2国間以上の国際協定である。2国間協定が多いが、北米自由貿易協定(NAFTA)等の多国間協定もある。
 ASEAN諸国は、ASEAN自由貿易地域(AFTA)を1992年に締結し、段階的な貿易自由化を行い始めた。ASEAN域内での関税や非関税障壁(NTB)の引き下げを行い、貿易の自由化、それに伴う経済の活性化、発展を目的とするものである。
 今日の東アジア経済統合において、ASEANは事実上中核的な位置を占めている。中国や日本、のちに韓国はASEAN諸国全体とのFTA(ASEAN+1FTA)をそれぞれ締結し、それをまとめたものをASEAN+3FTAとして事実上の東アジアFTAを構築するのが既定路線になっている。
 FTAのメリットのうち、経済的メリットとしては、自由貿易の促進拡大によるスケールメリット、協定国間における投資拡大の効果である。地域間における競争促進によって、国内経済の活性化や、地域全体における効率的な産業の再配置が行われ、生産性向上のメリットも期待される。政治的メリットとしては、協定国間の地域紛争や政治的軋轢の軽減、地域間の信頼関係の熟成が期待されること、貿易上の問題点や労働力問題なども、各国が個々に対応するよりも協定地域間全体として対応することができることである。
 FTAのデメリットとしては、協定推進の立場の国や人々が、地域間における生産や開発の自由競争や合理化を前提としていることが多く、自国に立地の優位性がない場合、相手国に産業や生産拠点が移転する可能性がある。このため、国内で競争力があまり強くない産業や生産品目が打撃を受けるほか、国内消費者が求める生産品の品質を満たせない製品が市場に氾濫するなど、生産者にとっても消費者にとってもデメリットが生じる可能性が存在する。海外製品が日本人独特のニーズに応えられるかどうかは未知数であり、他の自由貿易協定(FTA)地域で起きたメリットと同じことが、日本で結ぶ地域間においても起こるとは限らず、むしろ国民が望まない方向へ経済的にも政治的にも進む可能性もある。

4 EPAとは
 EPA(経済連携協定:Economic Partnership Agreement)とは、自由貿易協定(FTA)を柱として、関税撤廃などの通商上の障壁の除去だけでなく、締約国間での経済取引の円滑化、経済制度の調和、および、サービス・投資・電子商取引などのさまざまな経済領域での連携強化・協力の促進などをも含めた条約である。
 FTAが特定の国や地域との間でかかる関税等の通商上の障壁を取り除いて物やサービスの流通を自由に行えるようにする条約であるのに対して、EPAは物流のみならず、人の移動、知的財産権の保護、投資、競争政策など様々な協力や幅広い分野での連携で、両国または地域間での親密な関係強化を目指す条約である。
 日本ではEPAを軸に推進しており、2011年時点で、日本が過去に外国または特定地域と締結した協定はすべてEPAとなっている。シンガポール、メキシコ、マレーシア、チリ、タイ、インドネシア、ブルネイ、ASEAN、フィリピン、スイス、ベトナム、インド、ペルーと協定している。この他、韓国、EUなどとのEPAが交渉中であるが難航している。

5 TPPをめぐる状況
 再度TPPに戻ると、TPPは環太平洋地域の国々による経済の自由化を目的とした多角的な経済連携協定であって、EPAの一種である。
 TPPの原協定は、4カ国(シンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランド)で調印し、現在、アメリカ、オーストラリア、マレーシア、ベトナム、ペルーが加盟交渉国として参加し、原加盟国との拡大交渉会合に臨んでいる。
 日本がTPPに参加するかどうかの前提として、すでに日本は、TPP加盟国・参加国の多くとEPAを締結していることを考慮すべきである。また、WTOに基づいて日本の関税は引き下げられている状態である。
 韓国はTPPには全く参加する意向がなく、すでにアメリカ・EUとFTAを締結した。
 日本が本来目指すべきは、きめ細やかな対応が可能である、アメリカ・EUなどの2カ国間のFTAまたはEPAであると思われるのに、なぜ敢えてTPPを推し進めようとするのか、TPPによってどのような不利益が日本にもたらされるのか、真剣に議論されなければならない。