奈良・アドヴァンス違法派遣事件―150万円の慰謝料支払を命じる判決を勝ち取りました

2011年10月26日

弁護士 藤 井 恭 子

  1. はじめに
     2009年2月から裁判闘争を続けてきた、奈良の偽装請負・違法派遣事件において、150万円の賠償を命じる判決が出ましたので、報告させていただきます。
     本件の当事者であるRさんは、奈良県内にある、主にフッ素樹脂素材の加工・開発などを行う製造会社「東邦化成株式会社」で、2003年7月から派遣社員として働いてきた男性です。
     Rさんは、2009年2月、不況を理由に、東邦化成から、同年2月末に雇い止めすると通告され、民法協の派遣研究会が主催するホットラインに相談しました。
     その後、ただちに奈良労働局に対して違法派遣の是正申告を行い、東邦化成と、派遣元会社「株式会社アドヴァンス」に対して、違法派遣の是正指導及び雇用の安定を図る措置の勧告がなされました。
     同時にRさんは労働組合(奈良労連)に加入し、直接雇用を求めて東邦化成と団体交渉を続けました。
     しかしながら、交渉が決裂したため、東邦化成とアドヴァンス(及び、当初の派遣元であったアドバンテック株式会社)を被告として提訴したのです。
     請求内容は、①東邦化成に対する地位確認、②東邦化成とアドヴァンス・アドバンテックに対する損害賠償請求でした。
     なお、東邦化成に関しては、裁判上の和解が成立したため、今回の判決では地位確認についての判断はなされておらず、アドヴァンス・アドバンテックに対する損害賠償請求に関する判断のみとなりました。

  2. 本件の特徴
     本件の最大の特徴は、Rさんと派遣元との雇用関係が非常に曖昧にされていた点にありました。
     Rさんは、当初「アドバンテック株式会社」と雇用契約を結んでいました。
     しかし、派遣元がRさんに発行する「雇用通知書」や、給与明細には、「有限会社プロテクノ」や「アドバンテックサービス株式会社」など、違う社名が記載されるようになりました。
     Rさんは不審に思い、派遣元の担当者に雇用関係がどうなっているのか問い合わせましたが、「書類上のことだから」と言われ、説明を受けることができませんでした。
     最終的にRさんが雇い止めされたとき、派遣会社は「アドヴァンス株式会社」という名前になっていました。
     これらの会社は、すべて違う法人であり、提訴するまで、その関係性は全く明らかではありませんでした。
     裁判手続の中で、Rさんと派遣元との雇用関係、派遣元とその他会社との下請関係について求釈明を行いましたが、派遣元すら、自身の下請関係を正確に把握していない有様でした。
     Rさんは派遣元との雇用関係が不明確なまま、派遣先で就労させられていたのであり、派遣としての形式すら成していない状態で就労させられていたことが明らかになったものです。
     本件では、雇用主として責任を負うべき主体が曖昧にされているという意味で、その悪質性は単なる違法派遣と比べても、際だっていたものと言えます。

  3. 判決の意義
    (1)本件契約の適法性に関する判断
     冒頭述べたとおり、本判決においては地位確認についての判断はありませんでしたが、原告は、本件が「労働者供給契約」に当たり、無効であると主張していたため、原告と派遣先・派遣元との契約の適法性に関する判断がなされました。
     本件では、事実上の労働者派遣が行われていたにもかかわらず、契約上「請負」とする、いわゆる「偽装請負」が行われていた事案です。
     裁判所は、2003年7月から、事実上労働者派遣が行われていたと認定し、Rさんの業務が製造業であって、2004年2月末までは、製造業派遣が許されていなかったにもかかわらず、事実上、製造業での派遣が行われていたことを指摘し、派遣法違反であると認定しました。
     しかしながら、Rさんと派遣元との間に、一応の雇用関係が認められるとして、労働者供給契約とまでは言えないと判断しました。
     本件は、松下PDP事件と比べても、その契約の違法性が高いものであり、派遣元との間の雇用関係が希薄なものでしたが、裁判所は、
     ①Rさんの採用にあたって、東邦化成の関与が認められないこと
     ②アドヴァンス・アドバンテックの社員が、一応勤怠管理をしていた事実があること
     ③Rさんの給与額は、Rさんの就労時間が大きな要素となっているものの、最終的にはアドヴァンス・アドバンテックが決定していたこと
     を理由に、本件契約が派遣としては違法であるものの、アドヴァンス・アドバンテックとの間に雇用関係がないとは言えないとして、労働者供給契約を否定しました。
     本件は、多様な形で行われている偽装請負・違法派遣の中でも、派遣元との雇用関係が非常に曖昧にされており、悪質な事例に属するものですが、労働者供給に当たり無効であるとの判断はなされませんでした。
     今回は、派遣先に対する地位確認(黙示の労働契約成立)に関する判断はありませんでしたが、同様の事例で裁判がなされる際に資料の一つとして参考にしていただければと思います。

    (2)損害賠償請求に関する判断
     原告が、アドヴァンスとアドバンテックに対して請求していた損害賠償は、①中間搾取による不法行為と、②原告の雇用契約上の地位を不安定にした不法行為の2つを理由にするものです。
     まず、裁判所は、①中間搾取による不法行為は認めませんでした。上記3(1)で述べたとおり、アドヴァンス・アドバンテックとの間に一応の雇用関係が認められることと、アドヴァンス・アドバンテックが正当な業務手数料を超えて、違法な中間搾取を行っているとの立証ができていないと判断されたことが理由です。
     しかし、②原告の雇用契約上の地位を不安定にした不法行為は認められ、アドヴァンスとアドバンテックに対して150万円の支払が命じられました。
     その大きな理由の一つは、上記2で述べたとおり、派遣元とRさんとの雇用関係、アドヴァンスないしアドバンテックと他の会社との下請関係が非常に曖昧であり、Rさんの雇用主としての責任の所在が明らかにされていなかったことにあります。
     アドヴァンス及びアドバンテックが、Rさんの社会保険加入手続や、健康診断を怠っていたこと・Rさんの業務が有機溶剤を扱うもので、労働者の身体に危険を伴うものであったことなども、アドヴァンス・アドバンテックの違法性認定の要因となりました。
     結論として、裁判所は、アドヴァンス・アドバンテックによる派遣法違反・雇用関係を不明確にする行為が、労働関係法規の趣旨に反するものであり不法行為に当たると認定し、150万円の支払いと、弁護士費用15万円の支払を命じました。

    (3)判決の意義
     本件は、雇用主としての責任を免れようとするために、雇用関係を不明確にするという悪質な行為がなされていたことに対して、裁判所が厳しい判断を下したという意味で、意義ある判決と言えます。
     派遣労働は、企業が雇用主としての責任を回避する手段として用いられる危険性の高い雇用形態です。今回は、派遣先はおろか、派遣元までもがその責任を回避しようとしたものであって、社会上許されない事案であったことから、この判断は当然のものと言えるでしょう。
     原告としては、派遣先である東邦化成も一体となって原告の雇用上の地位を不安定にしたものであるとして、派遣先の責任も追及する構えでしたが、裁判所からの勧告もあり、和解で決着することとなりました。
     しかしながら、派遣元に対して150万円という高額の賠償命令が出されたため、原告としても納得できる結果が得られたと考えています。
     本判決は、10月14日に確定しました。
     裁判にあたり、特に派遣研究会において、皆さまに貴重なご意見をいただきました。ありがとうございました。

    (弁護団は、村田浩治、兒玉修一、藤井恭子)