「個人請負・個人委託も労働者」 INAXメンテナンス事件 最高裁逆転勝利!

2011年04月27日

弁護士 河村  学

  1. 最高裁で逆転勝訴

     本件は、INAXメンテナンス(以下「会社」という)から形式的に個人業務委託業者として扱われ、INAX製品の修理業務に従事している労働者ら(CEと呼ばれている。CEとはカスタマー・エンジニアのこと)が、組合に加入し、会社に団体交渉を申し入れたところ、会社がCEが個人事業主であり労組法上の労働者に当たらないとしてその団交申し出を拒否した事件である。
     4月12日、最高裁は、東京高裁判決を破棄し、CEの労働者性を認め、団交拒否を不当労働行為とする判決を言い渡した。東京高裁の裁判官は、組合側の主張を「社会の実情ないし経験則に照らしても合理的とは言い難い見解」と批判していたが、最高裁はこのよう原判決の判断は是認できないとし、組合側の主張を認めたのである。

  2. 労働者性を巡るこれまでの経緯

     労組法上の労働者性をめぐっては、以前から労働委員会・裁判で争われていたが、概ね使用従属性という概念をあいまいに使用しながら妥当な結論を導くという方法で判断されてきた。
     この問題に関する代表的な最高裁判決として中部放送事件判決(1976年5月6日)があったが、この判決も従来の流れに沿った事例判決と目されてきた。この判例解説として掲載されたいわゆる調査官解説には、同判決の内容を意図的に形式重視の方向に引きつける解釈がなされていたが、実務においてはあまり問題にされてこなかった。
     その後、労働契約上の使用者性・労働者性については形式を重視した厳しい判断が続き、労組法上の使用者性判断についても、朝日放送事件最高裁判決(1995年2月28日)が出されたものの、うまく活用できないまま、同判決の具体的「決定」という文言を悪用し、親子会社や雇用問題にかかわる派遣先の使用者性についてはこれを否定する判断が続いた。実質的判断の最後の砦が労組法上の労働者性概念という状況であった。
     ところが、平成20年7月~平成22年8月の間に、6件の東京地裁・高裁で労働委員会の救済命令を覆す判決が続いた(本件東京地裁判決のみ結論として救済命令を維持したが法的判断は他の裁判例と同様であった)。これらの判決に共通するのは、契約形式を重視し、労働契約と同様の法的権利義務がなければ労働者と認めないという判断であり、この判断枠組みには前記調査官解説が十二分に活用された。かつての整理解雇に関する東京地裁・高裁の「暴動」に類する動きであった。
     本件最高裁判決は、このような東京地裁・高裁の動き及び中部放送事件最高裁判例解説の立場を明確に否定し、就労実態から労働者性を判断する立場とその判断要素を示したものである。

  3. 最高裁判決の判断内容

    (1) 本件最高裁は、CEの就労実態を直視し、次のような判断要素と事実の摘示を行って、労働者性を認める判断をしている(田原睦夫裁判官の補足意見あり)。

    ①会社組織への組込み
     会社の主たる業務をCEが担っていたこと、会社が業務日・休日を指定し、日曜・祝日においても交替で業務を担当するよう要請していたことから、会社の組織に組み入れられていたとみるのが相当とした。

     ②会社による契約内容の一方的決定
     業務委託契約の内容は、会社の定めた「覚書」によって規律されており、CEの側で変更する余地がなかったことから、会社がCEとの間の契約を一方的に決定していたものというべきとした。

    ③報酬の労務対価性

     CEの報酬は、会社が予め決定していた顧客等に対する請求金額に、会社が決定した級ごとに定められた一定率を乗じ、これに時間外手当等に相当する金額を加算する方法で支払われていたのであるから、労務の提供の対価としての性質を有するとした。

    ④会社の依頼に応ずべき関係

     会社から修理依頼された場合、CEは業務を直ちに遂行するものとされていたこと、依頼を拒否する割合は1%弱であったこと、契約は会社に異議があれば更新されないものとされていたこと、報酬額は会社が決定する級によって差が生じ、担当地域も会社が決定していたことに照らすと、拒否を理由に債務不履行責任を追及されることがなかったとしても、会社の修理補修等の依頼に応ずべき関係にあったものとみるのが相当とした。

    ⑤ 指揮監督、場所的時間的拘束
     CEは、会社が指定した担当地域内において会社からの依頼にかかる修理業務を行うこと、原則として業務日の午前8時半から午後7時までは会社から発注連絡を受けることになっていたこと、顧客先では会社による作業であることを示すため、会社の制服を着用し、その名刺を携行し、業務終了時には業務内容等に関する報告書を会社に報告していたこと、全国的な技術水準確保のためCEとしての心構えや役割、接客態度等までが記載された各種マニュアルの配布を受け、これに基づく業務の遂行を求められていたことから、CEは会社の指定する業務遂行方法に従い、その指揮監督の下に労務の提供を行っており、かつ、その業務について場所的にも時間的にも一定の拘束を受けていたものということができる。

    (2) 本判決は、以上の要素から労働者性を認めた上で、組合側が団体交渉で求めた事項(①組合員の労働条件に関する組合との協議要求、②組合員の手当等の支払要求、③年収の最低保証の要求、④貸与機材の損傷等を会社の負担にすべきこと、④労災保険への加入要求)について、そのいずれも「CEの労働条件その他の待遇」、または会社との間の「団体的労使関係の運営に関する事項」であって、会社が決定することができるものと解されるとして、正当な理由なく団体交渉を拒否することは許されないとした。

  4. 最高裁判決の内容に対する若干のコメント

     判決の内容については、同日に出された新国立劇場事件最高裁判決と併せて十分な検討を要するが、ここではさしあたりいくつか指摘したい。

    ② 東京地裁・高裁の判断を明確に否定
     まず、本判決は、この間、東京地裁・高裁が行ってきた労働者性解釈を明確に否定している。すなわち、近時の判決では「法的な使用従属関係」を強調し、業務指示や指揮監督が契約上の権利義務に基づいて行われていない場合には労働者性を否定する判断を続けていたが、本判決は、このような立場をとらず、就労実態から労働者性を判断している。

    ③ 判断要素として上記五つを示した

     次に、本判決は、上記五つの判断要素から労働者性の有無を判断している。これは新国立劇場事件判決でも同じであり(ただ、同判決では指揮監督と場所的・時間的拘束を分けて六つの判断要素となっている)、今後の労働者性の判断要素を示したものといえる。

    ④ 「依頼に応ずべき関係」という要素を挙げる
     判断要素の中で重要なのは、従来「諾否の自由」の有無として議論されてきた要素について、「各当事者の認識や契約の実際の運用において…依頼に応ずべき関係にあった」か否かという判断を行っている点である(この点は新国立劇場事件判決も同じである)。
     これは、一つには、諾否の自由の有無を法的な権利義務の有無としては判断しないことを明確にした点(わざわざ「拒否を理由に債務不履行責任を追及されることがなかったとしても」と書き加えている)、また、二つには、契約解除(更新拒絶)を恐れるあまり依頼に応じざるを得ないことも、「応ずべき関係にある」ことの理由に加えている点において重要である。
     この判示は、前記調査官解説の誤謬を訂正し、裁判官をその呪縛から解き放つものである。

    ⑤ 一方的決定の要素を挙げる
     また、会社による契約内容の一方的決定の要素を重視している点も重要である(新国立劇場事件判決も同じ)。近時の東京地裁・高裁判決はこの要素を徹底して無視し、前記調査官解説はそう解釈する根拠を与えていたが、本判決はこれらの解釈を否定した。
     確かに契約は双方の合意により成立するが、その内容が実質的に押しつけられる経済的地位であるが故に団結権が必要とされるのであるから、この要件は経済的従属性を示す重要な徴表になるものである。

    ⑥ 専属性について

     本判決は、専属性については判断要素としていない。ただ、なお書きにおいて、CEは独自に営業活動を行って収益を挙げることも認められていたとの原判決の判断に対し、本件では独自の営業活動を行う時間的余裕は乏しかったと推認されること、CE自ら営業主体となって修理補修をした例はほとんどないことから、「そのような例外的な事象を重視することは相当とはいえない」としている。また、補足意見では、この点に関し、「CE制度の対象者がCEの求める業務以外に主たる業務を行っていたり」する場合は一般の外注契約関係と異ならないとしている。
     しかしながら、通常の労働者でもダブルワーク、トリプルワークをするのであり、他に業務があること自体が労働者性を緩める要素にはならないはずである。本判決では専属性は判断要素になっていない点を確認する必要がある。

    ⑦ 報酬額について

     本判決は、報酬の労務対価性判断において、報酬の額については何ら触れていない。一方、新国立劇場事件判決では報酬額が年間約300万円であったことを対価性の理由の一つに挙げている。これは後者が音楽家という特殊な芸術的技能を有する場合もあることから触れられたのだと思われる。少なくとも特別な免許・技能を要しない業務への労務提供の場合には報酬額の多寡は問題にならないというべきである。

  5. 今後の取り組みについて

     本判決は、労働者性に関する一般的な判断基準を定立はしなかったが、上記のような判断要素がくみ取れるので、今後の同種紛争にも大きく影響を与えるといえる。本判決が、法的な契約形式にとらわれず、就労実態から労働者性を判断するという姿勢を示した点は、当然のこととはいえ、評価できるし、契約形式を悪用し、さまざまな偽装を凝らす使用者が次々出ている昨今の状況に鑑みれば極めて重要な判断であるといえる。
     本判決が示した判断要素がすべて必要なのかなど疑問もあるが、今後、労働委員会・裁判の中ではこれらの要素にかかわる具体的な就労実態を示していくことが必要となる。
     現在、個人請負型就労者に関しては、公的な統計はないが、110万人とも125万人とも言われている。職種も運送員、外交員、技術者、建築作業員といった従来からあった職種に加えて、美容師、講師、配膳・調理補助、受付、ゴルフキャディなどさまざまな職種に広がりつつある。
     この判決を期に、労働法上何らの保護も受けない中で就労させられている「労働者」を大きく組織し、団結権・団体交渉権・団体行動権を行使して、要求実現を図る運動を起こす必要がある。
     なお、厚生労働省は、2010年4月に「個人請負型就業者に関する研究会」報告書を発表し、また、現在は「労使関係法研究会」を開いて本年6月にも中間報告を取りまとめる予定である。前者では、一定の業種について個々に労働者性に関する判断基準を設けるべきだとか、請負・委託で働くことの意味を募集の際に周知・徹底させるべきだなどと提案がされている。今後とも形式化の動きには警戒が必要である。

(弁護団は、村田浩治、河村学、愛須勝也、古本剛之、古川拓)