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決議

労基法の時間規制を外す、残業ただ働き法案を許さない決議

 厚生労働省労働政策審議会労働条件分科会は、本年2月6日、①働き過ぎ防止のための法制度の整備等、②フレックスタイム制の見直し、③裁量労働制の見直し、④高度プロフェッショナル制度の創設等を盛り込んだ「今後の労働時間法政等の在り方について(報告書案)」(以下、「報告書案」という。)を示した。

 報告書案は、①働き過ぎ防止のための法制度の整備等を行うとしているが、その内容は、年次有給休暇の時季指定を使用者に一部義務づけること以外は、監督指導の強化や労使の自主的取組の促進を求めるばかりであって、時間外労働に係る上限規制や休息時間(勤務間インターバル)規制の導入は見送られており、およそ長時間労働を抑制する実効的な規制とは言えない。

 他方で、報告書案は労働者にただ働きを強いる各種「見直し」を提言する。
 ②フレックスタイム制について、精算期間を現行の1か月から3か月に延長すること等、長時間労働を誘発する見直しが提案されている。
 ③裁量労働制について、使用者が割増賃金の支払いを免れるために法の趣旨を潜脱して制度を悪用している現実を放置したまま、営業業務や品質管理業務についても、企画業務型裁量労働制の対象業務範囲とすることが提案されている。

 そして、最も懸念されるのが④特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)の創設である。
これは、一定の対象業務に従事する年収1075万円以上の労働者を対象に、36協定の締結や割増賃金の支払義務等の適用を一切除外するというものである。
 この制度は、第1次安倍政権時代の2007年に政府が導入を目指したが、世論の強い反対によって断念せざるを得なかったホワイトカラー・エグゼンプションとその本質において何ら変わりはない。報告書案では、制度の対象となる労働者について、高度な専門的知識等を要し、業務に従事した時間と成果との関連性が強くない業務に従事する者として、金融商品の開発業務やアナリスト業務、コンサルタント業務、研究開発業務などを例示する。しかし、その詳細は法案成立後に省令で規定するとされており、実際には専門業務や企画業務が広く対象とされて、IT産業のSEなども対象になると言われている。また、年収要件についても、日本経団連が当初年収400万円以上の労働者を対象にすることを想定し、昨年6月の時点でも「全労働者の10%ぐらいは適用される制度」にするように要求していた上、昨年8月14日の日本経済新聞は政府が「大企業の課長級の平均である年収800万円超の社員で、勤務時間を自分の判断で決められる中堅以上の社員を想定している」と報道しており、今後なし崩し的に緩和されていくことが予想される。
 2013年度の過労自殺(精神障害)に係わる労災請求では専門・管理職が26%(1409件中の365件)を占めている。年収1075万円以上の労働者は30代後半と40代のホワイトカラーに集中しているが、この所得階層は長時間労働に従事している割合が高く、過労死・過労自殺が最も多い年齢層である。労働時間が賃金に何ら反映されないとなれば、仕事で成果を出すべく必然的に長時間労働に従事せざるを得なくなり、該当する労働者の労働が一層長時間化して健康被害が増加することも必至である。

 労働者の命と健康を守るために、労働時間を適正な範囲内に制限することが必要であることは周知の事実であり、労働時間規制の改悪は到底許されるものではない。
 ILO(国際労働機関)の労働時間関係の条約は、1919年成立の第1号条約(8時間労働制)以降、今日までに20本以上に及ぶが、わが国はこれらの条約については、一切批准することができないまま現在に至っている。その理由は、労基法においてさえ、36協定さえあれば労働時間が青天井であり、事実上上限の規制が行われていないからである。
 民主法律協会は、国際水準並みの労働時間規制こそ急務であるにもかかわらず、この要請に逆行して、長時間労働を拡大させ働き過ぎによる心身の健康障害を誘発する、労基法の時間規制すら外してしまう残業ただ働き法案に強く反対する。

2015年2月7日
民主法律協会 2015年権利討論集会

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