決議・声明・意見書

決議

安倍元首相の国葬に抗議し中止を求める決議

 本年7月22日、政府は、安倍晋三元首相の国葬を9月27日に実施することを閣議決定した。しかし、国葬は、法的根拠もないまま、「美しい国」を標榜しつつ日本を戦争のできる国にしようとし、また国政を私物化してきた安倍元首相を美化するもので、多くの国民の反対や異議を無視して強行し、民主主義の根幹を揺るがすものである。

2 政府は、国の儀式を内閣が行うことについては内閣府設置法が明記しており、閣議決定を根拠として国葬を実施することができると説明する。しかし、内閣府設置法は、法的根拠に基づき決定された儀式の事務分掌が内閣府であることを定めたものであり、元首相の国葬という新たな儀式を創出し、国費を支出する根拠にはなり得ない。

戦前の国葬はナショナリズムを高揚させ、最終的に国民を戦争に動員するための装置となった。国葬の根拠法令であった国葬令は、日本国憲法施行の際現に効力を有する命令の規定の効力等に関する法律第1条により、1947年12月31日限りで失効した。それは、国葬が国民主権、政教分離、法の下の平等、思想・良心の自由等を保障する日本国憲法と相容れないからである。国葬の実施は、国費を投じて国民に追悼を求めるものであり、思想・良心の自由など憲法が保障する各権利を侵害し、戦前回帰につながりかねない。

 また、国葬をする理由として、安倍元首相が8年余にわたって重責を担った点や、国の内外から幅広い哀悼、追悼の意が寄せられている点を勘案したとしている。しかし、安倍元首相については、国内外でその政策評価が大きく分かれている。特定秘密保護法、集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法、共謀罪法といった憲法違反の法案について審議を尽くさないまま採決を強行し、アベノミクスによる社会の分断・格差拡大、ロシア・プーチン大統領との外交交渉、教育基本法の改悪にはじまる教育への介入などには厳しい批判が寄せられている。森友学園や加計学園、桜を見る会といった国政私物化、公文書の改ざんや隠蔽等さまざまな疑惑も残存しており、真相解明を求める声は根強い。さらに、銃撃事件後、安倍元首相や自民党の議員らを中心に、多数の被害者を出している世界平和統一家庭連合(旧統一協会)との関わりが続々と明るみに出てきている。安倍元首相の政策や言動には、冷静な評価が必要とされるところである。

さらに、安倍元首相こそ、岸田首相が一線を画すとしている旧統一協会と最も強く、深く結びついた政治家であり、その安倍元首相を国葬とするのは矛盾も甚だしい。

4 国葬の実施は、こうした安倍政権の負の側面を隠しながら賛美礼賛するムードを煽り、安倍政権の功罪についての自由な言論活動を封じる危険が強い。

国葬をめぐっては、報道各社の世論調査では「反対」「評価しない」が多数を占めており、政府の閣議決定への反対世論が広がっている。そうした声を無視し国会の議論さえ経ることなく、実質的に国民への弔意を強制する国葬を実施することは、民主主義に反し、国民の分断を招く。

民主法律協会は、安倍元首相の国葬に強く抗議するとともに、直ちにその中止を求める。

2022年8月27日
民主法律協会第67回定期総会

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