決議・声明・意見書

決議

橋下市長と「大阪維新の会」による暮らし・福祉・教育の破壊に反対し、住民に目を向けた行政を求める決議

 橋下徹・大阪市長と「大阪維新の会」は、次に述べるとおり住民向け行政を大幅に削減し、さらに教育への政治介入や公教育の解体縮小を指向している。私たち民主法律協会は、こうした悪政に反対し、住民に目を向けた行政への転換を求めるものである。

1 市バス・地下鉄の民営化について
 府市統合本部が公表した「経営形態の見直し検討項目(A項目)基本的方向性(案)」では、市営地下鉄の民営化が掲げられている。しかし、地下鉄は黒字経営であり民営化する必要はない。住民の財産を売り渡すことは財界・大企業を喜ばせるだけであり、住民にメリットはない。むしろ民営化により利潤追求が優先されて安全性が軽視されることや、職員の労働条件の不安定化が危惧される。
 市バスについては、地下鉄と経営分離して、黒字路線は民間へ譲渡し、赤字路線は廃止する方針を明確化した。しかし、医療機関や商店への移動が困難となる「交通弱者」を大量に生み出すことは必至である。
 2010年度の経常収支では、地下鉄は246億円の黒字、市バスは24億円の赤字であり、市営交通全体では単年度黒字となっている。地下鉄と市バスが補完しあって地域交通体系が充実し、経営基盤も安定する。これを分離することは、市バス路線の維持を困難にし、路線廃止や減便が懸念される。
 住民が公共交通機関を利用して自由に移動できる権利(交通権)を保障することは、居住・移転の自由(憲法22条1項)、生存権(憲法25条)、幸福追求権(憲法13条)の実現にとって不可欠である。地下鉄・市バスを民営化して手放すことは、行政の責務を放棄するものであり許されない。

2 病院の廃止について
 上記「基本的方向性(案)」は、市立病院と府立病院の統合を検討課題として、特に市立住吉病院(住之江区)については、府立急性期・総合医療センターへの統合(廃止)を打ち出した。
 そもそも大阪市は、1993年当時9つあった市立病院のうち5病院を廃止(統合)するなど、公立病院の切り捨てを続けてきた。そのなかでも、市南部地域には小児科や産婦人科(周産期医療機関)が不足しており、住吉市民病院以外には、西成区・住之江区に出産できる病院は存在しない。
 同病院が廃止されれば、年間5万人の入院者と10万人の外来患者が行き場を失う。年間726件の出産を見守ってきた同病院の廃止は、地域から出産施設を完全に消し去ってしまう。橋下市長は、昨秋の市長選挙での「保健、医療を充実させる」という公約を選挙後半年で早くも破棄している。

3 住民の暮らしに直結する行政を切り捨て、予算を削減
 大阪市が本年7月30日に確定した「市政改革プラン」は、あらゆる世代にむけた暮らしと福祉の事業を削減・廃止するものとなっており、住民生活への影響は甚大である。
 保育料の引き上げ、「子どもの家事業」への補助金廃止、新婚家賃補助制度の廃止などは若い世代を直撃し、橋下市長がいう「現役世代への重点配分」が見せかけの宣伝文句でしかないことを示している。また、クレオ(男女共同参画センター)や住まいの情報センターの廃止・統合は、住民が気軽に相談できる場・地域のつながりを育む場を奪うものである。
 さらに高齢者向け施策をみると、地域コミュニティーづくり事業、老人憩いの家事業、敬老パスなどを廃止し、市社会福祉協議会への交付金も大幅削減されるなど、高齢者向け施策が大幅に削られる。
 大阪フィルハーモニー協会や文楽協会への補助金も大幅削減の方向であり、民衆に親しまれ育まれてきた文化を、採算性を理由に破壊してしまう。
 そもそも橋下市長は、「年間500億円の収支不足」と描き、市財政が深刻な危機にあるかのように描いて、財政改革が必要と強調している。しかし、大阪市は約20年にわたり黒字財政であり(その中味は歴代市政による大型開発優先・福祉切り捨て予算によるもので重大な問題はあるが)、本年度から急に赤字財政に転じるはずがない。実際には土地売却収入や事業収入を意図的に除外することによって見せかけの数字を作出しているにすぎない。そして、これによって従来以上の巨大開発への優先投資(高速道路、港湾開発、カジノ誘致など)を目指そうとしている。

4 教育への政治介入、競争と格差の奨励による子どもの権利の侵害
 橋下市長と「大阪維新の会」は、教育行政基本条例、府立学校条例、市立学校活性化条例などを相次いで成立させた。首長が教育目標の設定権限をもち、意に沿わない教育委員を罷免できるようにするなど、教育への政治介入の道が拡大された。
 また、教員に対する徹底した人事評価と処分の厳格化が定められ、教員の間に競争や相互監視が持ち込まれてしまう。これは教育現場を荒廃させ、本来ならば集団的に教育実践に取り組んでいくべき教員同士の団結や連携を弱めてしまう。
 さらには、学校別・市町村別の学力テスト結果の公表、通学区域の撤廃と学校選択制の導入、定員割れの学校の廃校を定めるなど、徹底した競争と格差を教育現場に持ち込もうとしている。これは、児童・生徒らが等しく教育を受ける権利(憲法26条)を侵害し、健やかな心身の発達成長を阻害するものである。
 府議会・市議会では卒業式等で教師に「君が代」起立斉唱を義務付ける条例が成立した。これにより思想良心の自由(憲法19条)の侵害がいっそう強まることが危惧される。
 このように、橋下市長と「大阪維新の会」は教育を根幹から変質させ、教育の政治利用によって「国際競争に打ち勝つ教育」、「国策実現に資する人材作り」を推し進めようとするものであり、断じて許されない。

 私たち民主法律協会は、このような動きに反対し、住民の暮らし・福祉・教育の切り捨てを許さず、大阪府・大阪市において住民の福祉増進という地方公共団体の本来の目的が達成されることを求め、その運動に全力をあげる決意を表明する。

        2012年8月25日 
      民主法律協会第57回定期総会
        

 

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