決議・声明・意見書

決議

大阪市「職員の政治的行為の制限に関する条例」の成立に抗議し、即時撤回を求める決議

1 大阪市議会は、7月27日、橋下大阪市長が提案していた「職員の政治的行為の制限に関する条例」を一部修正の上、大阪維新の会、自民党、公明党の賛成で、可決・成立させた。しかし、同条例は、大阪市職員の思想良心の自由、集会・結社・表現の自由という憲法上の基本的人権を、地方公務員法の規制を超えて厳しく制限するものであり、憲法違反、地公法違反の条例である。

2 本条例は、国家公務員法102条1項、人事院規則14-7(以下、「国公法102条1項等」という。)に倣い、大阪市職員が、①政党等の 機関紙たる新聞等の発行、編集、配布、②デモ行進等の企画、組織、指導、援助、③集会等における政治的意見の表明、④政治的目的を有する文書等の発行、回覧、掲示、配布、⑤政治的目的を有する演劇の演出、主催、援助、⑥政治団体を示す旗、腕章等の制作、配布、着用、表示、等の10項目の行為をすることを禁止している。さらに、本条例3条では、大阪市外において行った行為についても、その方法によっては大阪市内で行ったものとみなされる。
 例えば、時間外、休日に大阪市外の自宅から、ツイッターあるいはブログで原発稼働の是非や消費税増税について意見を述べること、デモ行進への参加を呼びかけることさえも、禁止の対象となりかねない。

3 言うまでもなく、大阪市職員も国民であり、憲法21条1項で定められた集会・結社・表現の自由が基本的人権として保障される。大阪市職員が、社会や政治のあり方に自分なりの意見を持ち、その意見を述べたり、政治活動をすることは当然保障されるべきである。
  国公法102条1項等が公務員の一定の政治的活動を禁止する趣旨は、国家権力を行使する権限を有する公務員がその立場を利用して、他者に自らの政治的意見を押しつけることにより、行政の中立性が侵害されることを防ぐことにある。その趣旨を超えて、個人的な政治的意見の表明や職務 時間外に公務員としての立場を離れて行う行為に適用されることは、憲法21条1項に違反するといわざるを得ない。休日に自宅周辺の民家等に政党のビラを配布したとして国家公務員が国公法違反に問われた事件(堀越事件)においても、東京高等裁判所は、2010年3月24日、同事件に国公法の罰則規定を適用することは憲法21条1項及び同31条に違反すると明言して、無罪判決を言い渡したところである。

4 地公法36条は地方公務員の政治的行為を規制しているが、それを超えて本条例のように、政治的行為を包括的・網羅的に規制するがごとき条例の制定は、地公法に反することは明らかである。
  さらに、本条例は、違反者には懲戒免職を含む懲戒処分を予定しているが、新たに規制の対象とされた政治的行為の中には軽微な行為もあり懲戒免職を含む懲戒処分を課すことは規制の手段としての相当性・均衡性を欠く。

5 国際的にも、民主主義国家においては、①勤務中とそれ以外を区別し、勤務時間外については公務員であろうとも一定の政治活動を認め、②職員の地位や権限に応じて規制の程度に差を設け、③規制違反に対する制裁は懲戒処分にとどめることが通例となっている。本条例は、こうした国際 的な動向にも逆行するものである。

6 このように、本条例は、憲法違反、地公法違反の条例であり、また公務員の政治活動に関する国際的な動向にも反するものであって、到底容認 できるものではない。
 

 当協会は、本条例の成立に断固抗議し、即時の撤回を求めるものである。

2012年8月25日
民主法律協会第57回定期総会

民主法律時報アーカイブ

アーカイブ
PAGE TOP