民主法律時報

労働法研究会「職場における人格権」の報告 ~被害の実態から労働者人格権の規範的意義を検討する~

弁護士 岸 朋弘(東京法律事務所)

1 報告

2021年2月27日、労働法研究会が実施され「職場における人格権」というテーマを学びました。山田省三先生(中央大学名誉教授)の講演の後、2つの事件の報告がありました。それぞれ簡単に報告します。

(1) 山田省三先生による講演
山田先生の講演内容は、「労働者人格権」の網羅的な説明と後述の2事件についての分析・検討結果の報告でした。労働者の人格権ないし人格的利益について、法律論、社会実態論、過去の裁判例との関係等、様々な観点から深く学ぶことのできるお話でした。大変勉強になりました。

(2) 事件報告
山田先生の講演の後、大阪市(旧交通局職員ら)事件(以下「ひげ裁判」)とフジ住宅事件の2事件について、弁護団から報告がありました。

ひげ裁判は、大阪市の地下鉄運転手である原告らが、ひげを生やして勤務していたことを理由として人事考課上の低評価を受けたこと等を争った事件です。フジ住宅事件は、使用者及びその代表者が、中国、韓国及び北朝鮮の国籍や民族的出自を有する者に対する人格攻撃の文言等が記載された文書を配布した行為等に対し、韓国籍を有する原告が損害賠償請求を求めて争った事件です。いずれも裁判所は労働者の「人格的利益」侵害を認めました。

両報告を聞き、ひげ及び国籍が人のアイデンティティを形作っていることを改めて認識し、職場において労働者の人格権等が侵害されることの深刻さを知ることができました。また、両事件はいずれも人格的利益の侵害を認めたものの、事実認定上または法律の解釈・適用上の課題を残すものであることも理解できました。

2 全体の感想

労働者による労務の提供は、労働者の人格と切り離せないうえに、労務提供の条件の決定において労働者は劣位に置かれているため、労働契約は、本質的に労働者の人格的利益を侵害する危険を内包するものといえます。この一般論は2事件の報告から強く理解できました。

だからこそ、労働法に固有の「職場における人格権」問題を議論し、職場での労働者に対する不当な扱いを人格権ないし人格的利益に対する侵害として構成しその内容を発展させることには意味があると考えられます。

この点、今回の研究会では、各弁護団から報告された各職場の労働者が受ける被害実態について、山田先生による丁寧な分析・検討、そして出席者による議論を通して「労働者人格権」の意義と機能をより深く学ぶことができました。

この研究会での学びが労働者人格権の保護につながることを期待し、また私自身が今後も労働者の職場での人格権保護のために精進することを決意し、感想とします。

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