民主法律時報

過労死防止大阪センター総会 「やりがい過労死を考える」シンポジウム

弁護士 西川 翔大

2019年4月25日(木)18時半からエル・おおさかで、過労死防止大阪センター総会・シンポジウム「やりがい過労死を考える」が開催されました。

1 松丸正弁護士の講演

初めに、過労死弁護団全国連絡会議代表幹事である松丸正弁護士の講演がありました。
(1) まず、松丸弁護士は、労基法は「人たるに値する最低限度の法律」であるものの、労基法に違反していない企業でも過労死がなくならない原因を考えなくてはならないと語りかけました。過労死ラインに設定されている三六協定の実情や労働時間の適正な把握ができない現状こそが過労死を生み出す原因にあり、なぜ労働者が労働時間の過少申告をしてしまうのかを考察した第一次電通事件の最高裁調査官解説を紹介されました。それによると、成果主義という社内体制の下、短時間で成果を上げた事実を残すために労働者は労働時間を過少申告する傾向にあることが分析されていました。このことから、成果主義を奨励する社会が過労死の発生を助長する一つの原因であることを認識しました。

(2) 次に、やりがい過労死の事例として、①勤務医・研修医、②教員などの事案を紹介されました。①勤務医の例は、自身の体調の悪化を認識していたとしても、緊急の患者のために、我慢して仕事を続けざるを得なかった事案でした。松丸弁護士は、医師が過労死ラインで働くことが当然の前提とされ、医師のやりがいを支えに国民の医療を成り立たせるか、医師が壊れるかの二律背反の状況にある現状を指摘されました。②教員には、公立学校の場合は「給特法」により、超勤4項目以外(部活は含まれない)の時間外勤務は教員の自主的活動であると定められているため、部活動等の時間外勤務に残業代は一切支払われないこと、公立・私立を問わず教員には授業以外の業務も多くある中で、授業の質を低下させるわけにはならないため、持ち帰り残業が常態化していることなど、教育現場は教員のやりがいと善意によって支えられている現状が紹介されました。

(3) 最後に、松丸弁護士は、やりがい過労死をなくすために使用者や国が社会的意義ややりがいを労働者に対して押しつける中で、労働者が家族も含めて安易に受け入れずに対抗していくことが必要であるとお話されました。

2 パネルディスカッション

次に、過労死防止大阪センター副代表幹事の岩城穣弁護士を司会に、看護師、生協職員、公立高校教員、私立高校教員の方々とのパネルディスカッションが行われました。

まず、看護師の方からは、病院が看護師のやりがいにつけ込み、過酷な夜勤や研修・勉強会を当然のものと受け入れるように求めてくる中で、妊娠中の看護師には原則夜勤を割り当てないこと、結婚特別休暇の導入など組合活動を通じて病院に対抗することができたことをご報告いただきました。また、生協職員の方からは、職員の主体性を重視する職場であるにもかかわらず、ノルマの達成と労働時間管理を使用者から口うるさく指導されることから、労働時間を過少申告する人がいる現状についてご報告いただきました。さらに、教員については、公立高校では、授業以外の業務として部活や課外活動は使命感がある教員に集中してしまう、まさに「やりがい搾取」が横行している構造的な問題が学校にはあること、私立高校では、公立とは異なり経営的な側面が非常に強く、教育本来の目的より経営の論理を優先して教員が利用されている実態についてご報告をいただきました。

以上のご報告をお聞きして、それぞれの職場で労働者のやりがいを利用した不当な勤務状況がある一方で、労働組合や訴訟を通じて対抗していく術があることは非常に参考になりました。

3 最後に

働くことにはやりがい・人間発達といった側面と辛く過酷な面があります。労働者が会社のために一生懸命に働いても会社にとって単なる歯車であり、過労死しても会社が責任をとってくれるとは限りません。この現状を重く受け止め、労働者のやりがいを利用した過労死が起こる前に労働者やその家族は自分たちの身を守るために対抗していく必要があると強く感じました。

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