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菅首相による日本学術会議会員の任命拒否に断固抗議し、任命拒否を説明し直ちに撤回することを求める声明

菅義偉首相は、2020年9月28日、同年10月1日から新たな任期が始まる「日本学術会議」会員の任命にあたり、新会員候補者105人のうち6人を任命しないという前代未聞の措置を行った。

日本学術会議(以下「会議」という)は、科学政策に対する提言や世論の啓発をすることによって日本の行政・産業等に科学を反映・浸透させることを目的として、日本学術会議法(以下「法」という)に基づいて設立された機関である。内閣総理大臣の所轄とされているが、その職務は独立して行うものとされており(法3条)、憲法23条が保障する「学問の自由」の下、科学者の学術研究が政府から独立した自由な立場で行われるものであることが大前提となっている。このような独立の立場から、会議は、学術行政について政府に勧告する権限をも有している(法5条)。実際に、会議は自由・独立した学術的立場から、国民にとって重要な政策提言を行ってきた。

会議の会員は、会議の推薦に基づいて内閣総理大臣が任命することとされている(法7条2項)。会員候補者の推薦にあたって、会議は、優れた研究又は業績がある科学者のうちから会員候補者を選考し、内閣総理大臣に推薦することとされている(法17条)。前記の会議の目的や性格からすれば内閣総理大臣による任命行為は形式的なものと解するほかなく、過去の国会における政府の答弁においてもそのことが明確に確認されている。

しかしながら、今般、菅首相は、会員候補者の一部のみを除外して任命をするという挙に出ており、特定の候補者を任命しなかった理由について全く説明していない。

今回、任命されなかった6人の候補者は、安倍政権が数の力で押し進めた安保法制や特定秘密保護法、共謀罪などに批判的な意見を示してきた。菅首相の任命拒否は、これら政府方針に批判的な科学者を排除する目的で行われたと推測する以外にないが、菅首相による恣意的な任命拒否により会議の人事の独立性が損なわれれば、政権に迎合的な意見しか出さない「御用機関」に成り下がり、その存在意義が失われることとなりかねない。

さらに菅首相による任命拒否という政治介入は、科学者に対する委縮効果をもたらし、学問の自由に重大な影響を及ぼすものである。会議の委員に関する内閣総理大臣の任命権は、政府から独立して政策提言や勧告を行う等の会議の性格及び任命を「形式的」としてきた従前の公権的解釈からすれば、会議が推薦した委員を内閣総理大臣が任命するかどうかの裁量権はなく、任命義務を負うと解すべきである。今般の理由すら示さない任命拒否は、明らかに違憲・違法である。

民主法律協会は、平和・民主主義・国民の権利を擁護することを目的とする団体として、菅首相による民主主義を歪める違憲・違法の任命拒否に断固として抗議し、任命拒否を行った具体的理由を明確に説明するとともに、会員候補者6人をただちに会員に任命するよう求める。

同時に、菅首相の強権的態度は、直近では東京高検検事長の閣議決定による違法な任期延長などにみられる、第二次安倍政権発足以来続いてきた、国民の権利・自由や民主主義を軽視し政権の意見を押し通そうとする姿勢を引き継ぐものであることは明白であり、到底看過できない。

民主法律協会は、かかる菅首相の姿勢に対しても強く抗議し、今後、同様の政治介入を繰り返すことのないよう強く求める。

2020年10月7日
民 主 法 律 協 会
会 長 萬井 隆令

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