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働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の施行に伴う 関係政令の整備及び経過措置に関する政令案等に係る意見

働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の施行に伴う
関係政令の整備及び経過措置に関する政令案等に係る意見

2018年8月21日
民 主 法 律 協 会

1 36協定について
(1) 新労基法36条2項5号は,労働時間の延長及び休日労働の適正化のために必要な事項として省令で定める事項を36協定に規定することを定める。省令案には,労働時間の記録方法,保存期間を36協定の記載事項とする規定がない。
しかし,労働時間の把握は,労働時間を適正化するための基本的な前提で必要な事項である。今般,新労安衛法66条の3で労働時間把握義務が課され,省令案では,タイムカード等客観的な方法で記録することが盛り込まれているのであるから,労働時間の記録方法及び保存期間についても,36協定の記載事項として省令で規定すべきである。
(2) 省令案は,健康福祉確保措置の実施状況に関する記録の保存期間を36協定の有効期間満了後3年間とするが,民法改正に伴い議論されている労基法関係の時効期間中の権利行使を可能とするような保存期間とすべきである。
(3) 参議院附帯決議15項で,使用者の意向による過半数代表者の選出は手続違反にあたること,使用者は過半数代表者がその業務を円滑に推進できるよう必要な配慮を行わなければならないこと,不利益取扱いの禁止を省令に定めることを求めている。これらを省令で定めるとともに,過半数代表者の業務円滑化のための会社施設・設備の利用や,勤務時間中の職務免除など具体的な措置も省令もしくは指針に明記すべきである。

2 労働時間の上限規制について
(1) 参議院附帯決議4項で,新労基法の延長規定では,4週間で最大160時間の時間外労働が可能であることが危惧されている。よって,1か月の起算日をどの日にするかを問わず,4週間で100時間を超える残業時間をさせてはならない旨,指針に定めるべきである。
(2) 指針案は,使用者が労働者への安全配慮義務を負うこと,いわゆる過労死ラインを超える長時間労働の場合に,労災認定基準で業務関連性が強いと評価されることに留意することを規定するものとしている。
しかし,100時間未満という上限規制については,国が法律で過労死ラインを超える長時間労働にお墨付きを与えるという強い批判があった。このような誤解を事業者がもたないよう,上限時間を遵守していた場合でも,長時間労働による安全配慮義務違反があれば,責任を免れないという表現で冒頭に明記すべきである。

3 労働時間規制の適用除外について
(1) 新労基法139条は,工作物の建設の事業(災害時における復旧及び復興の事業に限る。)その他これに関連する事業として省令で定める事業に関する労働時間規制の適用除外を定める。省令案は,この事業を,①新労基法別表第一3号に掲げる事業,②事業場の所属する企業の主たる事業が同号に掲げる事業である事業場における事業,③工作物の建設の事業に関連する警備の事業(交通誘導警備の業務に限る。)と定める。
しかし,前記②については,建設事業者でも総務部門,営業部門,海外部門など様々な部門があり,また,主たる事業以外での事業場についてまで,例外化の趣旨は全く妥当しない。また,人命にかかわることであるから,例外は極めて限定的に考えるべきところ,交通誘導の警備事業まで例外化すべきではない。したがって,前記②③の事業についてまで,例外として規定することは反対である。
(2) 新労基法140条は,一般乗用旅客自動車運送事業,貨物自動車運送事業その他の自動車の運転の業務として省令で定める業務について,労働時間規制の適用除外を定める。省令案は,この業務につき,前記の法定の2つの運送事業の業務に加え「その他四輪以上の自動車の運転の業務」と定める。
これでは,運転業務における労働時間規制の例外が際限なく広がる。省令にゆだねられたものの,厚生労働省が具体的に適示できなかった以上,このような包括的規定のまま省令で規定する意味は全くない。「その他四輪以上の自動車の運転の業務」という文言は削除すべきである。

4 年次有給休暇の取得について
(1) 参議院附帯決議14項で,使用者が年休付与義務を履行する場合,労働者から時季に関する意見を聞き,その意見を尊重し,不当に権利を制限しないことを省令に規定することとされている。よって,この内容を省令に規定すべきである。
(2) 省令案は,年次有給休暇の取得状況を記録した年次有給休暇管理簿の保存期間を3年間とするが,民法改正に伴い議論されている年休取得請求権の時効期間中の権利行使に資するような保存期間とすべきである。

5 指導面接義務,労働時間把握義務について
(1) 新労安衛法66条の8第1項は,省令所定の要件に該当する労働者に対する面接指導義務を定める。省令案は,この要件につき,週40時間を超える残業時間が1月あたり80時間を超え,かつ,疲労の蓄積が認められるものであることとする。
この点,疲労の蓄積が認められるかどうかの客観的判断は困難なため,このような要件は削除すべきである。
(2) 新労安衛法66条の8の2第1項は,新技術,新商品,新サービスの研究開発業務に従事する労働者が省令所定の労働時間を超えた場合の面接指導義務を定める。省令案は,この労働時間につき,週40時間を超える残業時間が1月あたり100時間であることとする。
しかし,長時間労働が労働者に与える影響は業務内容を問わず同じである。ただでさえ労働時間規制の例外とされたのであるから,せめて面接指導義務の要件についてだけでも,一般の労働者と同じにすべきである。残業時間だけで月100時間に至った段階で初めて面接指導が行われるというのは遅すぎる。
(3) 新労安衛法66条の8の3は,同法66条の8第1項及び66条の8の2第1項の面接指導の対象者となる労働者について,省令所定の方法による労働時間把握義務を課す。省令案は,この方法について,タイムカードや電子計算機による客観的な記録方法とし,3年間保存するための必要な措置を講じなければならないとする。
記録方法については賛成であるが,保存期間は,民法改正に伴い議論されている労基法関係の時効期間中の権利行使を可能とするような保存期間とすべきである。
(4) 新労安衛法66条の8の3は,労働時間把握義務の対象から,労働基準法41条所定の労働者(農水産業,管理監督者,監視・断続的業務従事者),高度プロフェッショナル制度の適用を受ける労働者のほか,同法66条の8第1項,同法66条の8の2第1項の面接指導の対象とならない労働者を除外している。
しかし,客観的方法で記録する場合,一部の労働者について記録できるのであれば,他の労働者についても記録が容易であると考えられることや,高度プロフェッショナル制度等の誤った適用により労働時間把握義務の対象となることが判明した後に,労働時間が全く記録されていないという事態を防止するため,すべての労働者の労働時間についても同様の方法で把握及び保存すべきことを指針に定めるべきである。
(5) 参議院附帯決議12項を踏まえ,労働者側から開示請求があった場合には,労働時間の記録を開示すべきことを指針に定めるべきである。

    以上

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