決議

真に必要な規制や対策をしないままの副業・兼業の普及・促進に反対する決議

2020年08月29日

 政府は、「働き方改革実行計画」(2017年3月)、「新しい経済政策パッケージ」(2017年12月)、「未来投資戦略2018」(2017年12月)、「副業・兼業に関するガイドライン」(2019年1月)、「規制改革実施計画」(2019年6月)等の様々な場面で、人手不足解消策と称して、労働者の所得増加や主体的なキャリア形成、自己実現等の明るい面を強調し、普及・促進を推し進めている。また、厚生労働省の「柔軟な働き方に関する検討会」や「副業・兼業の場合の労働時間の在り方に関する検討会」において、労働時間管理など副業・兼業に関する制度的課題が検討されてきた。

最近では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大を受け、2020年7月3日未来投資会議において、ウィズコロナ、ポストコロナ時代の成長戦略とし、キャッシュレス決済やデジタル広告市場の増大などと並んで副業兼業の推進を行う旨の「成長戦略実行計画素案」が提示された。そこでは副業・兼業の労働時間は社員の自己申告で把握し、申告漏れなどで通算労働時間が残業規制を超えても企業の責任を問わないことにして、労務管理の難しさから慎重だった企業の方針転換を促すとされた。そして、8月27日の労政審労働条件部会では、労働者の自己申告を前提とするガイドラインの見直し案が了承され、9月に導入されることとなった。

 しかし、それらは副業・兼業の実態から乖離しており、真に必要な規制や対策をおろそかにしている。

(1) 本業だけでは生活できない複数就業者が多いこと
「2017年就業構造基本調査」(総務省)によれば、複数就業者を所得階層別にみると、本業の所得が299万円以下の者が全体の約7割を占めている。また、「複数就業者についての実態調査」(JILPT調査、2017年)によれば、副業をする理由として「収入を増やしたいから」、「1つの仕事だけでは収入が少なくて、生活自体できないから」という理由が最も多い。副業・兼業を選択する者の多くは、主体的なキャリア形成や自己実現の追求という理由よりも、本業だけで生活することが困難であり、生活を維持するために副業・兼業をせざるを得ないという実態にある。まずは最低賃金の大幅な引上げなど、労働者が1日8時間従事すれば本業だけで十分に生活することができる労働政策を実施すべきである。

(2) 労働時間を管理・把握することが困難であること
労基法38条1項は、「労働時間は、事業場を異にする場合においても、労働時間に関する規定の適用については通算する」と規定している。

労政審で了承された改訂ガイドラインでは、法定労働時間や時間外労働時間の上限規制についての通算については通算を堅持しながらも、副業の労働時間を労働者の自己申告で把握するものとした。その上で、「簡便な労働時間管理の方法」として、副業・兼業の開始前に労使合意により、本業と副業の労働時間を合計して時間外労働の上限規制を超えない範囲で各使用者の労働時間の上限を設けた場合は、使用者は副業先の労働時間を把握する必要すらないとされた。

しかしながら、客観的な労働時間の把握は長時間労働による対策の前提となるものであるにもかかわらず、労働者の自己申告に任せると、副業兼業の事実を申告しなかったり、労働時間を少なく申告することが容易に想定され、必ずしも労働時間を真実かつ正確に申告することは期待できない。副業・兼業が進めば間違いなく労働時間は増加するが、労働者の長時間労働を抑制し、生命・健康を保護し、また生活時間を確保するという労働時間規制の趣旨目的に逆行するものとなる。

(3) 社会保険に加入できない労働者が発生しうること
さらに、社会保険加入においては一定の就労時間が要件とされており、複数就業者の場合、同要件について、事業者間が親子会社の関係にない場合は就労時間を通算しないこととされている。副業・兼業の普及により一事業者ごとでは就労時間の短い雇用が多くなると、現状の社会保険の加入要件を満たさない複数就業者が増加することが見込まれる。そうすると、複数就業者の生活保障はますます不十分なものとなる。

 他方で、従来から問題とされていた複数事業就業者に対する労災制度については、2019年12月10日の労政審(労働条件分科会労災保険部会)において、複数就業先の業務上の負荷を総合して評価すること及び複数事業場の給付基礎日額の合算を認めるよう制度を見直すことで大筋合意され、2020年通常国会で労災保険法が改正されて同年9月1日に施行される。従来の労基署における労災認定実務では、複数の就業先の労働時間を合算すれば過労死ラインを超えるような長時間労働を強いられていた場合でも、業務上の負荷及び給付基礎日額について合算することが認められておらず、不十分な補償しか受けられなかったが、この点の制度見直しにより、複数就業者やその遺族を労災上救済することが可能となり、この点では前進したものと評価できる。

しかしながら、事後救済だけでは不充分である。副業・兼業が長時間労働を促進・誘発することは明らかであり、複数就業者の生命健康を守る施策を十分に行わないまま、「成長戦略」でこれが促進されることがあってはならない。

当会は、副業・兼業の明るい面を強調して拙速に、上記問題点を置いたまま副業・兼業を普及・促進する政府の姿勢に反対し、労働者の生命・健康の確保を第一に考え、真に必要な規制や対策を整備するよう求める。

2020年8月29日
民主法律協会第65回定期総会