民主法律時報

非正規会議学習会「スキマバイトで労働者の権利はどうなる?」

弁護士 藤 井 恭 子

1 スキマバイトの広がり

2024年4月24日、非正規会議のオンライン学習会「スキマバイトで労働者の権利はどうなる?」が開催された。スキマバイトとは、求職者と募集企業をマッチングするアプリによって、数時間の短期バイト(スポットワーク)に就く働き方であり、この1~2年で急速に広がっている。タイミー、シェアフル、LINEヤフーなど、アプリで短期バイトをマッチングするサービス(スポットワーク事業)に参入する企業は増加しており、今春にはメルカリの参入が大きく報道された。事業者は積極的にテレビCMなどで宣伝をしており、スポットワークの登録者数は、約1500万人に達するという。

2 スキマバイトの現場の声

学習会では、まず、派遣労働の取材などを続けているジャーナリストの藤田和恵さんから、スキマバイトで働く労働者の声が紹介された。スキマバイト労働者は、労働現場で名前を呼ばれることがない。「タイミーさん」など、登録している事業者の名前で呼ばれるという。藤田さんの取材からは、「配達の仕事で行ったのに、接客やトイレ掃除など、契約外の仕事をさせられた」「就労現場まで行った後に、今日の仕事はなくなったから帰るように言われた」といった現場の声が紹介され、1人の労働者として扱われない、理不尽な取扱いが横行していることがあぶり出された。藤田さんは 、「名前を奪われることで、労働者としての尊厳も奪われる」と述べられていた。かつての日雇い派遣の現場と同様のことが、スキマバイトの現場で繰り返されている。

3 実質的な「日雇い派遣」

後半は、脇田滋・龍谷大学名誉教授より、アプリ(AI)を通じた仕事仲介の法律問題が論じられた。スポットワーク事業が広がった背景として、労働者をスポットで働かせるための人材派遣スキームを求める声が、経済界に根強く存在していた。そのような情勢下で、政府審議会での議論を経た後 、2022年1月、事業者自身によって「スポットワーク協会」が設立され、参入事業者が広がっていった。

スポットワーク協会は、スポットワーク事業について 「雇用仲介事業」と説明している。しかし 、アプリによるスポット ワークマッチングは、アプリ・AIによって職場と労働者をマッチングさせるだけで、労働者と求人会社とを取り持つ「仲介」は一切行われない。更に、タイミーによる愛知県知事リコール偽署名バイト紹介事例 など、不適切な求人が存在していることを、協会自身も認める有様である。

また、スポットワーク事業者は、労働者の出退勤時間をアプリで厳格に管理したり、求人側の評価によって仕事紹介を減らす制裁を科したり、労働者にジョブマッチング制限(労働時間の制限等)を課すなど、仲介業者の域を超えて労働者を管理・監督している。すなわち、単なる職業紹介ではなく、実態は日雇い派遣であることが明らかなのである。

4 問題意識を広げていくためには

このように日雇い派遣の実態があるにもかかわらず、政府は実態を無視して、スポットワーク事業を押し進めている。そして、労働者の間では、このような問題があるという認識は全く広がっておらず、むしろ「スキマ時間を使って合理的に働ける」「履歴書も面接も不要で、やったことのない仕事を経験できる」など、プラスイメージだけが広がっている。スポットワークで働く労働者は 、名前を奪われ職場の一員として扱われないまま、低賃金で働いており、使用者から不当に搾取されている。このような実態を広く知らせ、名を変えた日雇い派遣事業を止めさせ、正常な雇用を守る取り組みが急務である。

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