民主法律時報

共謀罪・通信傍受・司法取引は、刑事司法の人権保障機能を抹殺する―大阪弁護士会主催15/11/21「共謀罪」学習会の報告

弁護士 伊 賀 興 一

 実に中身の濃い、いい集会でした。
折りしもパリのテロ事件が起こったことを受けて自民党幹事長が共謀罪新設の必要性を発言し、通信傍受の拡大と司法取引という日本になじみのない制度の新設が含まれている刑事訴訟法一部改正案が継続審議となっているという状況から、この3つの制度が成立したら日本の刑事司法はどうなる?という関心が高まっている中で開かれました。集会参加は日程的に無理がありましたが、125名の参加をいただきました。ご協力ありがとうございました。

メインの講演は、元北海道警幹部の原田宏二さんです。演題を「腐敗する警察の権限拡大を許してはならない」として、約40分話されました。かねてから警察の市民観と市民の警察観という論点は民法協の中でも、また皆さんの団体の中でも意識されてきた問題だと思います。原田さんは冒頭から、警察学校の教科書で、「事前捜査積極説」・「司法警察と行政警察の区分不要論」が教えられている事実を知ってますか、という驚くべき問題提起から講演が始まりました。

いうまでもなく、司法警察は国家刑罰権に基づく犯罪捜査活動です。憲法、刑事訴訟法等によって、一定の要件の下で強制権限が付与されると同時に、令状主義やデュープロセスなどの人権保障機能の制約を受けています。令状主義の実態についても、原田さんから、逮捕状請求の際の疎明資料などは、捜査官同士で復命書などをでっち上げることがしばしばだ、などという衝撃の事実も体験に基づき告発されました。
その意味では人権保障機能は風前の灯ともいえる実体です。が、司法警察と、犯罪予防や生活安全活動というジャンルを担当する行政警察との区分は不要だという見解を警察学校で初任警察官に教えている、ということには私も大きな衝撃を受けました。

労働運動や市民運動、さらには青年運動が戦争法廃止を軸に、立憲主義、平和主義、民主主義擁護の共通課題で大いに活発化し、これまでの保守対革新という図式では測れない市民的エネルギーの発揮が想定されています。まさにこの時に、警察権限の肥大化を是とし、抑制原理としての「消極・比例の原則」などが不必要だと警察学校で教え込まれている事態が進んでいることは、運動弾圧を警戒し、弾圧と戦う立場からすると、決して見逃せない動きです。

原田さんの講演を受けて、新聞労連の日比野さん、弁護士の永嶋靖久さんの3人で行われたシンポジュームも大変熱の入った議論となりました。
日比野さんからは、日本の治安は犯罪発生率などから見ても他国に比べて、安全な国といわれているのに、政府や警察の広報は「体感治安」という表現で、不安感をあおって警察権限強化の世論づくりが進んでいる、との警鐘を鳴らされました。永嶋さんからは、フランスはアルジェリア問題を抱えてきたことから、1980年代には「対テロ法制」をほぼ完備している国として有名だが、パリでのテロ行為を防げなかった。日本でテロ対策をどう考えるか、という点で大変示唆するものがある、やはり、テロの標的になるような政治情勢をこそ排除すべきと指摘されました。

シンポでは、話し合っただけで犯罪とするという共謀罪、市民や団体の通信や会話を警察が盗聴する制度、さらには、人の犯罪に関する情報を警察に提供することで、自分の犯罪の処罰の減免の取引ができる司法取引などが、市民生活監視が強化されるとともに、虚偽の情報提供で司法取引を行い自分の罪を免れようとする風潮を法律が作り出すなど、人権保障機能を根幹とする日本の刑事司法の原則を抹殺するもの、と強くアッピールされたことを報告します。

原田さんの講演や3人の議論を全て紹介することはこの場では不可能です。ただ、この学習会を企画した大阪弁護士会刑事法制委員会では、この集会の議論を反訳し、パンフレットにして多くの団体や市民に参考にしてもらおうと考えています。ぜひとも活用してほしいと思います。
来年の参議院選挙後には、いずれの提案も国会で議論されると思われます。旺盛に学習会を行いましょう。自由法曹団も、団員がそれぞれ勉強して、皆さんの学習の協力ができるように頑張りたいと思います。原田さんに講師をお願いする学習会も大いにお勧めします。
警察による市民監視を当然とする警察国家は、市民の目と耳をふさぐ秘密国家、戦争国家への道です。戦争法の廃止とともに、こうした動きを許さない戦いを、みんなで構築したいものです。

最後に、この集会は当初日弁連の後援が受けられる予定でした。しかし集会直前に、日弁連から後援しないという連絡を受けました。日弁連としては推進している可視化の法制化案が入っている刑事訴訟法一部改正案に賛成しており、その中に入っている通信傍受の拡大や司法取引の新設に反対する学習会を後援することは、可視化の法制化推進の障害になる、というのでしょう。
弁護士会内部もなかなか大変だということを付け加えておきます。

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