民主法律時報

韓国ドキュメンタリー「塩花の木々 希望のバスに乗る」上映会の報告

弁護士 下迫田 浩 司

 2012年9月28日、民法協国際交流委員会などが呼びかけ団体となって、韓国ドキュメンタリー「塩花の木々 希望のバスに乗る」上映会をドーンセンターで開催しました。
 国際交流委員会は、昨年来、韓国の民主化運動に学ぶ企画を細々と続けてきましたが、今回は、大々的に他の団体・個人等にも呼びかけて実行委員会をつくり、みなさまの宣伝活動のおかげで、250人くらいの方々が、上映会に来てくださいました。

 このドキュメンタリー映画は、昨年、韓国で実際に起こった凄まじい闘争を記録したものです。
 韓国の大手企業の一つである造船会社「韓進(ハンジン)重工業株式会社」では、  年以上にわたって整理解雇が行われていました。解雇通告を受けた労働者たちは闘いを続けましたが、会社の不誠実な対応が続き、自殺者が20数名にのぼりました。
 2011年1月6日、キム・ジンスクさんという一人の女性労働者が高さ35メートルもの巨大クレーンに登りました。労働組合として長期のストライキを構えても整理解雇を阻止できず、追い詰められて最後の手段としてクレーンに登ったのです。目的は、400名の労働者の整理解雇撤回を広く世の中に訴えることでした。
 しかし、なかなかニュースでも取り上げられず、半年近くは孤立してクレーンでの籠城を続けていました。
 そんな中、彼女がツイッターで訴えかけたクレーン上からの叫びが、徐々に市民の間に広がっていき、ついにクレーン籠城後157日目に、約700人の市民が「希望のバス」に乗ってクレーンの下まで応援にかけつけました。
 その後も、第2次、第3次、第4次、第5次の「希望のバス」で、毎回1万人近くの市民がかけつけました。この「希望のバス」の正式名称は、「整理解雇と非正規職のない社会を目指す『希望のバス』」というそうです。この「希望のバス」に乗って支援にかけつけた人たちは、労働組合などの組織的な人に限らず、一般の市民で個人的にキム・ジンスクさんの闘いに共鳴した人たちがたくさんいました。日本からも、この闘いに共感して韓国まで行って、「希望のバス」に乗って応援にかけつけた人たちがいます。
 2011年11月10日、韓進重工業からの暫定合意案が労働組合で可決され、ついにキム・ジンスクさんは、自らの足でクレーンから降りました。
 「塩花の木々 希望のバスに乗る」という映画は、この成り行きをリアルタイムで撮影し続けたオ・ソヨン監督によって作られたものです。なお、「塩花の木々」とは、労働者の背中に広がる汗の結晶をキム・ジンスクさんが「塩の花」と表現し、労働者を「塩の花を咲かせる木」にたとえたものです。

 上映会当日は、オ・ソヨン監督にも、韓国から来日していただき、ドーンセンターの会場で、質疑応答などをしていただきました。
 オ・ソヨン監督のインタビューの中で私が印象に残った言葉は(メモしたわけではないので正確ではないかも知れませんが)、「『希望』の反対は、『絶望』ではなく、『無関心』だと思います。」「希望が見えていてそれに向かって闘うのではなく、希望がハッキリとは見えていなくても、闘っていくうちに希望が見えてくることがあると思います。」という言葉です。
 日本における私たちの闘いの中でも、なかなか具体的な展望や希望が見えない中で闘っていかざるを得ない局面がたくさんあります(というか、そのような局面ばかりかも知れません)。具体的な展望が見えないから闘わないのではなく、闘っていく中で希望が見えてくることもあるということを、オ・ソヨン監督を通じて、キム・ジンスクさんから教えていただきました。

 キム・ジンスクさんも、本当に、具体的な展望など全くないまま、クレーンに籠城したと思います。韓国では、このような場合、最後、自殺で終わってしまうという悲劇的なことが多いので、キム・ジンスクさんも、覚悟して、身辺をきれいに整理してから、クレーンに登ったそうです。「希望のバス」に乗った市民の方々も、自分たちがバスでクレーンまでかけつけて、いったいどれだけの効果があるのか、具体的な展望など全くなかったと思います。それでも、市民一人ひとりが、もしかしたら自分も少しは力になることができるかも知れないと思って、「希望のバス」に乗ったのです。その一人ひとりの小さな力が積み重なった力は、結果的には、とても大きな力になりました。キム・ジンスクさん一人の闘いだけでは到底なし得なかった成果を、無名の一人ひとりの力が成し遂げたのです。

 韓国で昨年起こった、この大きな闘いから、私たちは学び取ることがたくさんあると思います。
 それと同時に、今回、この上映会に多くの人々の協力により、約250人もの方々が集まってくれました。この連帯の力を、今回の上映会だけで終わらせるのは勿体ないと思っています。
 とりあえず、11月1日(木)午後6時30分から8時ころまで、女性共同法律事務所4階404号室にて、実行委員会の会議を開催し、上映会を振りかえり、今後の活動について話し合う予定です。これまで実行委員会に出席されたことがない方の出席も大歓迎です。

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