第3回「日韓労働法フォーラム」の報告

2011年10月26日

弁護士 中 西  基

  1. はじめに
     去る10月1日、大阪市大文化交流センターにて、第3回「日韓労働法フォーラム」が開催されました。この企画は、大阪市大の根本到先生が事務局長をされている労働法理論研究会が主催するもので、韓国から労働法の研究者や実務家ら約20名が来日され、日本側からも労働法研究者や実務家など約50名が参加しました。「非正規雇用と雇用平等」をテーマとして、午前10時から午後5時半までのロングランで盛りだくさんの内容でした。当日の報告は次のとおりです。
     『韓国における非正規雇用政策』(嶺南大学・趙淋永)
     『非正規雇用と均等待遇原則』(広島大学・緒方桂子)
     『韓国における同一価値労働同一待遇』(弁護士・金善洙)
     『非正規雇用の差別是正制度の争点』(鄭永薫・憲法裁判所責任研究官)
     『同一価値労働同一賃金原則実施システムの提案』(早稲田大学・浅倉むつこ)
  2. 韓国の非正規労働法制
     韓国では1997年の通貨危機をきっかけとして人件費縮減と雇用調整のために非正規労働(派遣、期間制の他、偽装請負不法派遣を含めて)が急増し、それによって雇用構造の二極化と社会的不平等の問題が深刻になりました。このような状況はまさに日本と同じです。
     韓国では、このような社会状況を踏まえて、2006年12月に派遣法の改正と期間制及び短時間労働者の保護等に関する法律の制定が行われ(施行は2007年7月1日)、非正規労働法制が整備されました。
     派遣法では、派遣期間を原則として1年に制限し、派遣元・派遣先・派遣労働者の合意があれば1回に限り延長は可能であるが総派遣期間は2年を超えることができないとされ、また、違法派遣の場合には派遣先への直接雇用が義務付けられ、直接雇用された場合の労働条件については当該派遣労働者と同種又は類似の業務に従事する労働者に適用される就業規則等で定められる労働条件か、それがない場合には既存の労働条件を下回ってはならないとされています。
     期間制法では、使用事由の制限はなく、2年を超えない範囲であれば使用できるが、2年を超えると期間の定めのない労働契約を締結したものとみなすとの規定が設けられました。短時間労働者に関しては、同種又は類似の業務に従事する正規労働者と非正規労働者との差別的処遇が禁止されています。
     さらに、非正規労働者に対する差別禁止の実効性を確保するために「差別是正制度」が導入されました。差別されていると主張する労働者が労働委員会に差別是正を申請すれば、労働委員会において仲裁・調停・是正命令がなされるという制度です。
     日本では、派遣法改正は国会で店晒しにされたままですし、有期労働法制も労政審での審議されている段階にすぎず、パート法8条、9条の規定も実効性が乏しいままです。このように、法制面では日本は韓国より一歩も二歩も遅れています。
     (なお、韓国の非正規労働法制に関しては、労旬1733号(2010年12月上旬号)をご参照ください。)
  3. 雇用平等について
     緒方桂子教授の報告では、「差別禁止」、「不利益取り扱い禁止」、「平等取扱い原則」、「均等待遇原則」、「同一(価値)労働同一賃金原則」といった概念の整理がなされました。さらに、使用者には労働者を雇用形態に関わらず平等ないし均等に処遇する義務が課せられると解すべきであり、この雇用形態に係る均等待遇原則は強行的な好悪力を有する法規範であると位置づけるべきであるとの見解を述べられました。
     浅倉むつ子教授の報告では、同一価値労働同一賃金原則を日本において実施するシステムとして、「客観的職務評価制度の構築」や「平等賃金レビュー」の策定が提案されました。
  4. 感想 
     非正規労働問題、雇用平等問題に関して、日韓の研究者による最先端の議論を聞くことができて大変有意義なフォーラムでした。契約自由の原則を制限する規範として、ジェンダー平等原則という考え方はある意味でとても単純で分かりやすいものです。しかし、雇用形態の違いによる処遇の違いは、まさに契約自由の原則から直接導かれる帰結ですから、これを制限する理論的根拠をどこに求めるのかはとても難しい理論的な課題です。日本と韓国の相互交流を深めることによってこの点の理論的研究が深められることを期待します。
     もっとも、雇用平等が理論的な研究だけ実現できるはずはありません。使用者は、非正規雇用の割合を拡大することによって労働分配率の逓減を目指しているわけです。労働分配率が低位のままで雇用平等を達成してもあまり意味はありません。労働者階級全体としての取り分を増やすことによって雇用平等を実現するためには、正規労働者と非正規労働者との連帯・団結が不可欠でしょう。このような運動面での課題についても真剣に向き合わなければならないと強く感じました。
  5. おまけ
     民法協国際交流委員会では、来年春頃に、韓国調査を計画中です。調査の目的は、主として、韓国の労働運動・社会運動に学び、日本の運動に生かしてくことです。ぜひ多数のご参加をお願いします。