決議・声明・意見書

声明

大阪市立小学校長の「提言」を理由とする訓告の撤回と、子どもたちの 学ぶ権利の保障のために教職員の言論の自由の十分な保障を求める声明

1 提言を理由とする訓告処分

大阪市教育委員会は、2021年8月20日、大阪市立木川南小学校の久保敬校長が、本年5月17日、松井一郎大阪市長及び大阪市教育長にあてた「提言」を送付したことに対して、文書訓告の処分とした。

しかし、校長に対する訓告処分は、憲法上保障された表現活動の自由を抑圧する不当な処分であり、子どもたちの学ぶ権利及び安心・安全な教育の実現を妨げるものでもあることから、断じて容認することができない。

2 校長による「提言」は憲法上保障された重要な権利であること

松井市長は、4月19日、突如、大阪市立の小中学校を原則オンライン授業に切り替える意向を発表した。しかし、市立小中学校では、すべての子どもたちのオンライン授業を可能とするだけの基盤が整っておらず、教育現場は混乱を極め、児童生徒・保護者に過大な負担がかかり、現場の教職員も疲弊することになった。校長は、長年、子どもたちに接し、子どもたちの教育、成長のためにどのような支援をすべきかについて模索し続けた教育者として、これまでの教育施策により教職員が疲弊し、教育の質が低下しつつあることや通信環境の整備等十分に練られることがないままオンライン授業が実施されたことによる教育現場の混乱の実情を教育委員会に伝えるために、「提言」を行ったものである。

一般の労働者がその権利を守るために、使用者に対し批判的な言論行為を行うことは、国民の権利として保障されている(憲法21条、28条)。ましてや、久保校長は教育現場の責任者として、教育者として子どもの学習の権利を守り、安心・安全な教育を実現するために「提言」したものであり、言論として強く保障されなければならない。現場の教職員の声が不当に抑圧されれば、自由な意見の交換が出来なくなり、そのしわ寄せは子どもたちに及ぶことになる。

これまでの裁判例でも、労働者による使用者への批判行為は、内容が真実であるか真実と信じる相当の理由がある場合、使用者に対する批判行為として正当であり、懲戒の対象とすべきではないと判示しており(三和銀行事件・大阪地判平成12年4月17日など)、労働者の言論活動を理由とする制裁は抑制的でなければならない。

3 松井市長による懲戒処分の示唆およびそれに対する強い抗議

松井市長は、校長の提言に対して、「決めたことをやらないというなら処分の対象」「ルールに従えないなら、組織を出るべきだと思う」などと述べて、校長に対する懲戒処分を示唆した。これは、現場の教職員からの切実な声に対する不当な圧力にほかならない。 松井市長による懲戒処分の示唆に対しては、多くの市民や当協会を含む諸団体から厳しい抗議や批判がなされている。市立中学校のある校長の呼びかけに応え、校長の「提言」に幅広い立場から賛同するとともに、校長への不処分を強く求めた保護者、現役教職員、市民ら255名が寄せた意見書も出されている。

4 校長に対する訓告処分は断じて許されない

大阪市教育委員会は、世論からの強い批判を受けて懲戒処分は断念したが、訓告処分を強行した。訓告処分も、労働者に不利益を及ぼす恐れがある制裁であり、市長や教育委員会に対する批判的な言論を萎縮させる効果が大きい。

大阪市教育委員会は、訓告の理由として、校長による提言は独自の意見に基づく内容であり、子どもの安心・安全に関する教育委員会の対応に懸念を生じさせ、関係教職員の努力を蔑ろにしたとしている。しかし、保護者や教職員からは、大阪市立小中学校のオンライン授業の実施により学校現場が混乱したとの意見が多数上がっており、校長による提言は、独自の意見などではないし、これまでの大阪市の教育施策に加えて、オンライン授業の一方的な押しつけによる教職員の疲弊を危惧し、関係教職員の権利を守るための意見表明である。むしろ、学校現場を混乱させ、多くの子どもたち、保護者、現場の教職員に不安と懸念を生じさせたのは、松井市長および大阪市教育委員会であり、その責任は重大である。

民主法律協会は、労働者の権利を擁護し、民主的な社会を実現することを目的とする団体として、大阪市教育委員会に対し、一刻も早く校長への訓告を撤回することを求めるとともに、松井市長および大阪市教育委員会に対し、すべての子どもたちの学ぶ権利を保障し、安心・安全な教育を実現するためにも、日々奮闘する現場の教職員の言論の自由を十分に保障するよう求める。

2021年9月24日
民 主 法 律 協 会
会長 萬井 隆令

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