決議・声明・意見書

声明

大阪市立小学校長の「提言」を理由に懲戒処分を示唆する動向に抗議し、 全ての子どもたちの学ぶ権利の保障及び安心・安全な教育の実現を求める声明

1 大阪市立小中学校の「オンライン授業」実施方針による現場の混乱

本年4月以降の新型コロナウイルス感染再拡大に伴い、大阪府をはじめとする自治体が政府に対して緊急事態宣言の発出を求める中、本年4月19日、松井一郎大阪市長は突如、記者会見で、大阪府に緊急事態宣言が出された場合、市立の小中学校を原則オンライン授業に切り替える意向を発表した。

4月22日、大阪市教育委員会は、市長の記者発表に追随し、市立小中学校に対し、緊急事態宣言中、午前中はオンラインやプリントで自宅学習を行うという方針を通知した。そして、4月25日に緊急事態宣言が大阪府に発出されたことを受け、翌4月26日からオンライン等での自宅学習を実施することとなった。

しかし、市立小中学校では、すべての児童生徒についてオンライン授業(学習)を可能とするための基盤が整っていない状況にあったため、教育現場は混乱を極め、児童生徒・保護者、教職員に過大な負担がかかることになった。

2 大阪市立小学校長による「提言」と懲戒処分を示唆する動向

大阪市立木川南小学校の久保敬校長は、5月17日、市長及び大阪市教育長に対し、オンライン授業(学習)により学校現場が混乱し、児童生徒と保護者に大きく負担がかかっていること、及び、従来からの児童生徒を過度の競争に駆り立てる誤った教育施策により教職員は疲弊し、教育の質が低下していることを訴える内容の「提言」を送付した。同「提言」は、知人を通じてSNS等で公表され、また報道機関によって報道された。

これに対し、5月20日に開催された大阪市会教育子ども委員会において、大阪維新の会所属の杉村幸太郎議員が「提言」を取り上げ、現役の校長が提言を送付し、またインターネットや報道機関を通じ公表した行為を問題視し、同行為が地方公務員法33条の「信用失墜行為」や大阪市職員基本条例に該当するか否かについて質問した。これに対し、市教委は、校長に顛末書を提出させ、事情聴取を行うと回答し、今後同校長を懲戒処分する可能性を示唆した。

また、市長は同日の会見において、同校長の行為について「ルールに従えないなら、組織を出るべきだと思う」などと発言した。

3 校長の「提言」に対する圧力は断じて許されない

コロナ禍において、教育のほか、医療や保健、介護など様々な現場で混乱が続き、現場を把握しないまま、「トップダウン」による政策が強行され、ますます混乱する現象が起きている。大阪府においてコロナウイルス感染者が急増する中で、学校教育のあり方、教育施策を検討するにあたっても、現場の実態を把握することがまず肝要であった。

ところが、一部の議員と市教委による懲戒処分の示唆及び松井市長の発言は、現場の教職員が首長や上司に意見具申すること自体に圧力をかけようとするものであり、教職員を精神的に威圧するパワーハラスメントともいうべきもので、許されない。

労働者がその権利を守るため、使用者に対し批判的な言論行為を行うことは、権利として保障されている(憲法第21条、第28条)。公立学校の教職員は、公務員として、地域住民の生活と権利を保障する責務を負い、また、教育者として、専ら子どもの利益のために教育の内容及び方法を決定すべき責務を負う立場にある。地域の子どもたちの学ぶ権利を守る本来的な役割から、使用者に対する批判を含めた言論行為の自由は強く保障されねばならない。

裁判例では、労働者による使用者に対する批判行為は、内容が真実である場合、真実と信じる相当の理由がある場合、使用者に対する批判行為として正当な行為といえる場合には懲戒の対象とすべきではないとされている(三和銀行事件・大阪地判平成12年4月17日など)。また、懲戒処分を行うことは、結果として、反対の立場に立つ者の言論活動自体を抑制することにつながり、民主的な政治体制下において許されることではないことから、当該言論行為がことさら事実を誇張・歪曲した不実のものと断ぜられない限り、信用失墜行為には当たらないとされている(香焼町事件・長崎地判平成2年11月6日)。

今回の校長の「提言」は、市長及び市教委によるオンライン授業(学習)実施強行がもたらした現場の混乱を、まさに事実として明らかにし、これに基づき意見を述べたものである。また、小学校長として、子どもの安全・安心と学ぶ権利を保障するという自らの職責を果たそうとする目的でなされた、至極真っ当で正当な批判行為である。文部科学省もオンライン授業については、対面授業を基本とし、教科書使用義務との関係や児童生徒の心身の状況が見極められるかなど、全面的実施を奨励しているものではない。にもかかわらず同校長の提言を「信用失墜行為」や職員基本条例違反として懲戒処分の対象とすることは、憲法上保障された自由の侵害であり、決して容認されない。

これが容認されるようであれば、現場の教職員から実態に即した意見が出せなくなり、何よりそのしわ寄せは子どもたちが負うこととなる。

民主法律協会は、労働者の権利を擁護し、民主的な社会を実現することを目的とする団体として、木川南小学校校長に対する懲戒処分を示唆する大阪市長、同市教委の動向に断固として抗議し、同校長に対する懲戒処分をしないよう強く求める。また、校長が行った「提言」の内容に強く賛同の意を表し、全ての子どもたちの学ぶ権利の保障と、安心・安全な教育の実現を求めるものである。

2021年6月2日
民 主 法 律 協 会
会 長 萬井 隆令

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