西谷敏著 『労働法 [第2版] 』をどう読み、どう活用するか

2013年11月25日

弁護士 鎌 田 幸 夫

1 今、何故「第2版か」
 西谷敏先生の労働法「第2版」(日本評論社)が出版された。「第2版」の意図は、「第2版はしがき」と「エピローグ 労働法はどこへ」で次のように端的に述べられている。
 2008年の初版発行後、労基法、労働者派遣法、労働契約法、高齢者雇用安定法など重要な法律改正が相次ぎ、労働者性や非正規を巡る重要な判例が次々と出された。また、2012年末に成立した第二次安倍内閣は、労働法制の全面的な規制緩和の動きを強めている。このような激動の時期に、労働法を「静態的」に描く体系書の執筆に「ある種のむなしさを覚えた」が、「労働法の存在そのものが根本的に問われている時期だからこそ労働法の原点を確認することが必要である」というものである。「第2版」が、今、出版された理由がまさにここにある。「第2版」は、「静態的」な労働法学の体系書であるとともに、この激動の時代に、労働運動、裁判闘争、立法闘争に立ち向かう労働者や実務家のために書かれた「動態的」な理論書・実務書でもある。前者の観点からの評釈は私の力量を超えるので、ここでは後者の観点から述べてみたい。

2 「第2版」の特徴
 「第2版」の特徴としては、初版以降の重要な法改正と判例と学説の進展を踏まえて、深く掘り下げられた新たな解釈論と法政策論が展開されていることである。
 解釈論としては、①最近の若者や高齢者等の雇用情勢を踏まえた「雇用保障法」、②最近の最高裁判例、中労委命令、学説の進展を踏まえた労組法上の労働者、使用者概念、③非正規労働について、労働契約法などの法改正や最近の判例を踏まえた有期雇用、パート労働、派遣労働、④整理解雇の法理、⑤改正高年法と継続雇用拒否などである。
 政策論としては、①労働者派遣法の再改正、②日本版ホワイトカラー・イグゼンプションの導入、③限定社員の制度化、④解雇の規制緩和による労働移動の促進、⑤有料職業紹介の規制緩和などが展開されている。
 いずれも、労働組合、実務家が、裁判闘争・立法闘争・労働運動において、今、苦闘している課題ばかりであり、本書は必読であると思う。そこで、私なりに、それぞれの場面で「第2版」をどう活用するかを考えてみた。

3 「第2版」をどう活用するか
(1) 裁判闘争における解釈論
 裁判の勝敗を決するのは大半の場合、「事実と証拠」である。「事実と証拠」にもとづき、より説得力ある事実の認定とルール(規範)へのあてはめを裁判官に提示できるかが勝負である。労働事件も例外ではない。ところが、労働法は、あてはめるべきルールが必ずしも自明ではない。例えば、「労働者」「使用者」、争議行為や組合活動やその「正当性」など基本的概念やルールそのものが不明確であり、「解釈論」によって解明・補充・修正する必要がある。それゆえ、より説得力ある解釈論を提示できるかによって裁判の結論が左右される事件も少なくない。例えば、労組法上の「労働者」に該当するかについて、事実と証拠が全く同じあるにもかかわらず、東京高裁は否定し、最高裁は肯定したことなどがわかりやすい例である。ここに、労働法学の解釈論の実践的な重要性がある。
 ところで、著名な民法学者である大村篤志教授は、今日の解釈論における判例の役割の重要性を指摘し、「判例は前衛で、学説は後衛」が基本的役割分担であり、学説は「判例の成果を整序し体系に取り込む作業に重点を置くようになっている」とする(基本民法Ⅰ「有斐閣」)。確かに、学説のそのような役割は大切であろうし、判例のルールを適用してその事件の妥当な結論が導ける場合はそれでよいだろう。しかし、先に挙げた争議行為や組合活動の正当性に関する判例(最高裁判決)のルールは極めて制限的であり、そのまま適用すれば争議行為や組合活動の自由を極めて制約してしまう。また、労組法上の使用者概念に関する朝日放送事件最高裁判決のルールを派遣型だけでなく親子会社類型にまで拡大し、使用者概念を狭く解釈する最近の判例・命令の傾向も妥当でない。
 このように、現代社会では、従来の判例の傾向を当てはめると不当な結論となるケースや、派遣法や高年法など新しい立法下で闘われるケースも増えている。そのような事件をかかえて日々悪戦苦闘しているのが民法協弁護士の現状である。そのような事件で少しでも前進するためには、従来の判例の整序にとどまるのではなく、憲法、労働法と実態から判例を批判的に検討し、あるべき方向性を示す解釈論を展開する体系書が是非とも必要である。「第2版」は、まさにその役割を果たすものである。
 困難な事件にぶつかったときには、是非「第2版」を紐解いてもらいたい。西谷説と「対話」しながら、基本原理に遡って判例や学説を批判的に検討するときに、必ずや、その事案の即した、解釈論における突破口や有益な示唆が得られると思う。

 (2) 立法闘争における政策論
 安倍政権下では規制改革会議等の主導で、派遣法の再改正など労働法制の全面的規制緩和が進められようとしている。労働組合や労働弁護士は、その本質を見抜き、危険性を広く知らせていくことが求められている。その際に、各課題ごとに情報を知らせるのだけでは十分ではないと思う。労働法体系全体のなかに各課題を位置づけて、労働法の原理や存在そのものを危うくする本質論や危険性を訴えることが大切だと思う。「第2版」では、体系書に取り込まれた各課題の解釈論の後にじつにホットな「政策論」が展開されている。類書にはない試みであり、立法闘争に関わる者にも必読であろう。

(3) 労働運動における運動論
 労働運動に携わる人は「集団的労働法」の部分(約140頁の分量)だけでも通読されると、日々の団交や労働組合活動の理論的な確信を得ることができると思う。また、政策論やエピローグなども是非お読みいただきたい。
 ところで、本書は、規制緩和による労働法の危機とともに、わが国の労働組合の組織率、機能、存在意義の低下による労働組合の危機も指摘する。労働法は、労働者保護法と労働組合による集団的な交渉という二本の柱によって、労使の実質的な対等を実現しようとするものであるが、そのいずれもが危機に瀕しているのである。
 労働法の規制緩和の時代であるからこそ、もう一つの柱である労働組合の役割が相対的に重要となる。そして、職場で労働組合をどのように組織化し、拡大し、活性化するかは、労働組合の大きな課題である。この労働組合の組織化について、西谷説は、個々の労働者の自由の尊重の視点から「ユニオンショップ協定」(組合員でない者の解雇を使用者に義務付ける協定)を違法・無効とし、有効とする通説・判例と激しく対立している。西谷説は、「労働者は団結することによってのみ真の自由を獲得する」ものとしても、それは「強制」によってではなく「自発性と説得」によって実現されるべき、というのである。労働者の「自発性」と労働者による「説得」は、労働組合の組織化の場面だけでなく、労働組合活動や市民運動一般にも通じるものであろう。もっとも、それは、決して平坦で容易な途ではないように思える。労働組合の再生と活性化にとって、何が必要か、本書からは、様々な課題と問いかけがなされているといってよい。

4 終わりに
  本書は、読者によって、 様々な読み方、活用の仕方があるように思える。いずれにせよ、大切なことは、本書で展開されている解釈論や問いかけに触発を受けて、その根本にあるものを議論し、検証し、実践・応用していくことであろう。そのことが、これまでの学究生活の大成として「初版」「第2版」を執筆された先生の労苦に少しでも報いることになるのではなかろうか。

日本評論社
2013年10月20日発行
定価 4,935円
※民法協にて少しお安くお求めいただけます。