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旧労働契約法20条に関する5つの最高裁判決についての声明

 2020年10月13日及び15日、最高裁は、旧労働契約法20条における有期雇用労働者の不合理な労働条件の禁止が争点となった大阪医科薬科大学事件、メトロコマース事件、日本郵便事件(東京、大阪、佐賀)の5事件について、相次いで判決を言い渡した。

15日の日本郵便3事件では、最高裁第一小法廷(山口厚裁判長)は、扶養手当、年末年始勤務手当、有給の病気休暇制度、夏期冬期休暇及び祝日給手当について、各手当等の趣旨が原告ら契約社員にも当てはまるものとして、格差は不合理であり違法とする原告勝訴の判決を言い渡した。それ以外にも、最高裁は、会社が転居を伴う配置転換のない新一般職員の正社員に支給していた住居手当を不合理な労働条件であるとした高裁判決について会社側上告を受理せず、住居手当の格差を違法との判断を確定させた。

他方で、13日の大阪医科薬科大学事件では、最高裁第三小法廷(宮崎裕子裁判長)は、研究室秘書として勤務してきたアルバイト職員(有期雇用・時給制)の賞与の格差について、正職員の60%の支給率を下回る部分について違法としていた大阪高裁判決を取り消し、原告の賞与格差に関する請求を棄却し、また同日のメトロコマース事件では、同第三小法廷(林景一裁判長)は、地下鉄の売店販売員として長年勤務してきた契約社員の退職金の格差について、正社員の支給率の4分の1を下回る部分を違法としていた東京高裁判決を取り消し、原告らの退職金格差に関する請求を棄却するという、いずれも極めて不当な判決を言い渡した。

 日本郵便3事件の判決が、扶養手当(家族手当)や住居手当、一定の休暇等の格差を不合理なものとして違法とした点は、18万人いる日本郵便で働く非正規労働者はもちろんのこと、あらゆる企業等で働く非正規労働者の手当や休暇制度における格差是正を一歩前進させるものとして評価できる。とりわけ同事件の大阪高裁判決が手当や休暇の多くについて勤続5年超の労働者のみ違法と判断した「5年基準論」を最高裁が明確に排斥した点は妥当な判断である。

しかしながら、非正規労働者の正規労働者との大きな格差の要因となっている基本給や賞与・退職金などの基本的な労働条件の格差が是正されなければ、正規労働者と非正規労働者に広がった大きな格差を是正することはできない。しかるに、大阪医科薬科大学事件・メトロコマース事件において最高裁は、賞与・退職金について、ハマキョウレックス事件・長澤運輸事件最高裁判決では触れられていなかった「正社員としての職務を遂行しうる人材の確保や定着を図るため(いわゆる有為人材確保論)」という使用者の抽象的・主観的な意図を認定し、些細な職務内容の違いを「一定の違い」としたり、使用者の人員配置計画や正社員登用制度の存在など使用者が恣意的に運用する可能性が高い事情を「その他の事情」として考慮し、不合理性を否定した。しかもハマキョウレックス事件最高裁判決や大阪医科薬科大学事件・メトロコマース事件の各高裁判決が前提にした 「均衡のとれた処遇を求める規定」である旧労働契約法20条の趣旨については何ら触れず、この点の基準すら示さず、割合的な違法すら認めなかった。なお、メトロコマース事件や日本郵便事件でも賞与の格差を不合理ではないとした高裁判決に対する労働者側の最高裁への上告受理申立が排除され、賞与格差の是正を求める請求を斥ける判断が確定している。

最高裁が経営者の経営判断に偏重し、低賃金で苦しむ非正規労働者の実態に目を背け、これほどまでに広がった格差の是正について踏み込まなかったことは、旧労働契約法20条の制定趣旨に反し、パート有期労働法の施行など格差是正の流れに大きく水を差すものとして、強く非難されなければならない。今後の真の均等待遇の実現、格差是正の運動において必ず乗り越えなければならない大きな課題である。

 日本全体でみれば、非正規労働者は2120万人超え、非正規率は38%に達するなど、格差是正・均等待遇の実現は喫緊の課題である。旧労働契約法20条をめぐる格差是正のたたかいは、個人の尊厳や差別されないという平等権に基づいて、また国際的に承認された同一価値労働同一賃金原則という基本的人権に関する課題に真正面から取り組むものである。

民主法律協会は、新設されたパート有期労働法の下で、住居手当や扶養手当、一定の休暇制度の格差の不合理性を認めた日本郵政事件最高裁判決を足がかりにしながら、大阪医科薬科大学事件及びメトロコマース事件で是正されなかった賞与、退職金、そして基本給といった基本的労働条件の格差の是正、均等待遇の完全な実現に向け、引き続き奮闘することをここに表明する。

2020年10月21日
民 主 法 律 協 会
会長 萬井 隆令

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