民主法律時報

建設アスベスト大阪1陣訴訟判決の報告

弁護士 遠地 靖志

1 はじめに

2018年9月20日午後2時30分、関西建設アスベスト大阪1陣訴訟の大阪高裁判決(第3民事部、江口とし子裁判長)が言い渡された。建設アスベスト訴訟では11番目の判決、高裁段階では4番目の判決である。判決は、これまでの判決を受け継ぎ、国についても、建材企業についてもその責任を全面的に認めるものであり、建設アスベストの早期全面解決に向けて大きく前進する意義を有する判決であった。

2 国の責任

建設アスベスト被害に関する国の責任については、東京1陣地裁判決(2012年12月)以後、本判決に至るまで、労働者との関係では安衛法等に基づく国の規制権限不行使の違法を認める判決が10連続で言い渡されてきた。しかし、一人親方等との関係では、建設現場でのばく露実態に労働者との差がないにも関わらず、安衛法等が直接保護対象とする「労働者」ではないという形式的理由で、国の権限不行使の違法が及ばないという不当な判断が続いていた。

しかし、今年3月の東京1陣高裁判決において、はじめて一人親方等に対する国の責任を認め、8月31日の京都1陣高裁判決でも一人親方等に対する国の責任を認めた。一人親方等に対する国の責任を引き続き認めるかが、本判決の国との関係での最大の争点であった。

本判決は、一人親方等が安衛法等の直接の保護対象でないとしても、製造等禁止(同法55条)や警告表示(同法57条)に関しては、これらの規定の由来や趣旨に加え、建築現場で労働者と同じように働き、同じように石綿粉じんにばく露したという一人親方等の稼動実態に照らしてみれば、国家賠償との関係では一人親方等もその保護範囲に含まれるとして、一人親方等に対する国の責任を認めた。

また、判決は、建築現場でこれだけ大量の被害が発生した原因が石綿建材を普及させた国の住宅政策にあることを指摘し、さらに製造禁止という抜本的対策が十数年も遅れた点も指摘し、国の責任割合を従来の3分の1から2分の1に大幅に引き上げた。

3 建材企業の責任

また、建材企業については、警告義務違反を認めながら、被災者の発症の原因となった建材が特定できないとして、因果関係を否定する判決が続いていた。

しかし、京都1陣地裁判決(2016年1月)が、当該職種が類型的に扱う建材の種類や建材のシェア等に基づき、被災者ごとの主要原因建材・企業を認定して、建材企業の責任を認めたことを契機に、神奈川2陣地裁判決(2017年10月)、神奈川1陣高裁判決(同年同月)でも建材企業の責任を認める判決が続いた。8月31日の京都1陣高裁判決でも、同地裁判決の判断を維持し、建材企業の責任を認めた。

本判決は、こうした全国の判決の流れを受け継ぎ、本件の因果関係の立証が困難であることや手持ち資料を提出しない建材企業の応訴態度を指摘し、そうしたなかでシェアと確率論を駆使した原告らの立証方法の正当性を認めた。そして、原告毎の主要原因建材・企業を認定し、民法719条1項後段の類推適用によって主要原因企業らの共同不法行為責任を認めた。建材企業の責任割合も、全部責任を前提にして、他の石綿建材からのばく露等も考慮して、原告毎に平均して4割の責任を認めた。

4 早期全面解決に向けて

大阪高裁判決により、国は同一訴訟で10連敗となった。国がここまで負け続けた裁判はない。国の責任はより一層明確になり、一人親方の救済も大きく前進した。また、建材企業の責任を認める司法判断の流れも確実なものとなった。建設アスベスト被害の全面解決には、「建設アスベスト救済基金」(仮称)の創設が必要であるが、その創設に向けて政治や行政に強いメッセージともなった。

全国6箇所で闘われている12の訴訟のうち、東京、大阪の各高裁で2つずつ、計4つの判決が言い渡された。今後、最高裁での審理が本格化していくことであろう。

一方、本判決は、解体作業との関係では国も建材企業も警告義務違反はないとして、その責任を否定した。この点は到底納得できるものではなく、最高裁や残る高裁判決(札幌、福岡)、2陣訴訟で克服していかなければならない。

原告団、弁護団は最高裁での勝利、早期全面解決に向けて全力で取り組む決意である。引き続き、ご支援をお願いしたい。

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