民主法律時報

クイズ

会長 萬井 隆令

 権利討論集会の後の懇親会で、クイズを出しました。奇妙な判決がでたので、それを紹介し、裁判所を告発しようと考えてのクイズでしたが、解答は示しませんでした。

甲から乙、乙から丙へと業務を下請けに出し、しかし、実際には甲が乙、丙の従業員を指揮命令して就労させているという典型的な2重の偽装請負で、派遣切りにあった丙の従業員が甲を相手取って、黙示の労働契約の存在確認を請求したDNPファイン事件です。

光学機能フィルムのプリント基板製造業務を大日本印刷KKから請け負っているDNPファイン(甲)は、勤務体制は3組2交替で、工場全体のシフト表を定め、工程―班ごとに甲社員が管理職として就いて、人員体制表に基づき混在して就労する甲、乙、丙3社の社員各人に毎日、作業位置を示した 設備配置版を確認させ、「作業予定表」に従い「製造指示書」に基づいて作業させ、終わると、「生産実績表、作業時間表、設備日報及び引継ぎ連絡シート」を作成させ、それを次の班が引継いで作業に入るというものでした。

さいたま地裁は、甲は「作業上の具体的な指揮命令をしていた」から労働者供給事業にあたるが、労働者と甲の間に「事実上の使用従属関係」があったとは認められない(から、黙示の労働契約の成立は認められない)、と判示しました。
控訴審で東京高裁は、地裁の事実認定をほぼ全面的に下敷きにしながら、「基板を製造する過程の一部として前後関係にある」が「それぞれ独立して作業することができる」、人員体制表は所属の班、担当する工程を記載しただけで、甲による班編成を意味しない、労働者は「作業に当たって作業予定表及び製造指示書を参照する」だけで、「ほかに逐一指示を要しない」等と指摘して、甲の具体的な指揮命令はなかったと判示しました。

さて、この地裁、高裁の判決の理由付けを推理してくださいというクイズなのですが、正解はありません。それだけの事実が揃い、地裁のように、労働者供給事業と認めながら使用従属関係はなかったとか、高裁のように、人員体制表、作業予定表、製造指示書といった文書は「指示」を意味しないなどとは、まともな常識を備えた人は思いつかないからです。「こんな判決、アリか?」

裁判所による「正解」は、労働法律旬報の2月下旬号に掲載されています。「面白うて、やがて腹立つ…」です。私は判例評釈をしています。

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