安倍政権の「働き方改革」に どう立ち向かうか――12月3日「これからの労働運動を 語り合う集い」の報告

2017年01月15日

弁護士 鎌田 幸夫

1 集いの趣旨

12 月3日、熊沢誠先生、西谷敏先生をお招きして、「安倍政権の労働政策にどう立ち向かうか―これからの労働運動を語り合う集い」が開催されました。熊沢先生が『私の労働研究』、西谷先生が『労働法の基礎構造』という研究生活の集大成である著書を相次いで出版されたことを契機に、労働者、労働組合、弁護士らが集い、これからの労働運動、とりわけ、今、大きな問題となっている安倍内閣の「働き方改革」にどう対応するかをテーマとして大いに語り合おうというものでした。参加者150人で大盛況でした。詳しい報告書が別途出されますので、ここでは当日の内容を簡単に報告した後、現在進行中の安倍内閣の働き方改革にどう対応するかを述べます。

2 集いの内容

熊沢先生は、安倍内閣と財界は経済成長のためという点では共通し、多様な働き方(副業・兼業の拡大、テレワーク促進、解雇の金銭解決等)は早急に進めることでは一致するが、長時間労働規制や同一労働同一賃金については、安倍内閣は労働時間の上限設定や同一労働同一賃金のガイドラインを検討しているものの、財界は消極的であると分析し、労働組合は、ノルマ、残業、休暇取得抑制等の許されぬ事例を告発することや正規・非正規の仕事を横断する職務評価制を適用することを提起されました。

西谷先生は、「働き方改革」の背景を、①少子高齢化による労働力不足、過労死過労自殺を生み出す働き方の限界(労働力政策)②購買力の引き上げ(経済政策)、③改憲への地ならし(政治的背景)と分析し、安倍内閣の「働き方改革」と主要産業100社の社長へのアンケート(日経2016年9月 日)にみる個別資本の要求(裁量労働の拡大、テレワーク・在宅勤務の促進等)との間には乖離があり、改革は容易には進まない、長時間労働の規制は、三六協定の上限規制が焦点であり、同一労働同一賃金は、ガイドラインを作成してから法改正というやり方は順序が逆であり、ガイドラインが低いものであればそれを法制化するだけとなるおそれがあるとしつつ、労働運動は、改革に「ケチをつける」だけではなく、これを好機とする積極的な立法闘争を行う必要があると強調されました。

パネルディスカッションでは、POSSEの今野晴貴さんは「同一労働同一賃金」とは、性別や年齢・雇用形態の違いにかかわらず、同じ仕事には同じ賃金を支払うという原則であるが、日本では賃金は職務ではなく、役割・責任・雇用管理区分で決定されており、この賃金制度改革を欠いたままでは「均衡処遇」にしかならないのに、安倍内閣は、ここでも「同一労働同一賃金」という用語を使用(誤用)していること、この「日本型」の「同一労働同一賃金」の作用としては、従来型の日本型企業では、形式的な職務分離が進み、限定社員などの中間形態の設置が予想され、非正規依存業界では、処遇格差の縮小は一定範囲に止まるが、ブラック企業の場合は、同一労働同一賃金を求めるのに適した最も労働市場であるとしたうえで、労働者層の要求に応えた長時間労働規制、同一労働同一賃金の実現を求めていかなければならないとされました。

また、きょうとユニオンの玉井均さんからは、307日間に及んだiWAi分会の職場占拠とストライキによる争議の画期的な勝利解決とその要因、仁和寺の調理師の長時間労働・残業代請求事件など労働組合の闘いの報告が、豊川義明弁護士からは、立法要求実現のためのネットワークの立ち上げの必要性が、在間秀和弁護士からは、今回の改革の検討会からは、労働者側はカヤの外に置かれており「なめられている」こと、電通事件などをあげながら、改めて労働組合の存在意義、役割についての提起がありました。会場からは、国労、郵政ユニオン、教育合同、武庫川ユニオンなどの各組合での取り組みの報告と、参加者からの質疑応答がありました(紙面の関係で省略します)。

3 安倍内閣の雇用改革をどう見て、どう対応するか

安部内閣の雇用改革をどう見るのか。集会の内容とその後(12月20日付け)の政府のガイドライン案も踏まえて簡単にまとめてみます。

①今回の改革は、安倍内閣(自民党政権)の労働政策やアベノミクスの行き詰まりの現れであり、その打開策として成長戦略の一環として位置づけられているということです。同時に、それは、4割に上る非正規労働者の増加と格差の拡大、電通事件をはじめ年間200件前後に及ぶ過労死・過労自殺の認定など、「労働力の再生産」を困難とするような深刻な状況であり、政府としても「放置」できないことを示しています。

②安倍内閣の進める改革と個別資本の要求とは乖離があることです。日本の社長のアンケートにあるように、個別資本が求めるのは「多様な働き方」であり、労働時間規制や同一労働同一賃金の導入ではないのです。また、総資本である経団連も「日本型の同一労働同一賃金」として「自社にとって同一労働と評価される場合に同じ賃金を払うこと」とし、日本型制度を温存しようとしています。このように財界の抵抗があるので、安倍内閣の雇用改革は、もともと不十分で実効性のないものに終わるおそれがあったのです(にもかかわらず、安倍内閣は、用語を誤用して「同一労働同一賃金」の実現、労働時間規制に取り組んでいるとアピールしているのです。)。

③このことは、今回策定されたガイドライン案にも反映されています。最も重要な基本給格差については、職業経験や能力、業績・成果、勤続年数を基準とし、これに違いがあれば格差は不合理でないとし、また、経団連の反対があって、賃金格差の合理性についての企業の説明責任は盛り込まれませんでした。賞与は、貢献度に応じた支給を求めており、福祉厚生(通勤費、食堂利用)や、出張手当、食事手当、精勤手当は均等待遇が求められますが、長期雇用を前提とする退職金、家族手当、住宅手当は盛り込まれず、派遣労働者については具体的な記述がありません。

④長時間労働の規制についても、自民党の働き方改革特命委員会の中間報告で時間外労働の上限規制やインターバル規制が盛り込まれましたが、経団連は、インターバル規制は、生産性を阻害するとして反対しており、その行方はわかりません。

では、これから安倍雇用改革にどう対応するかです。
安倍内閣は、 来年秋の臨時国会に指針を踏まえた関連法案の提出を目指すとしています。

このまま何もしなければ、財界の意向どおり「多様な働き方」と裁量労働制の拡大や解雇の金銭解決が導入され、格差是正はガイドライン案のような不十分で実効性のないものに終わり、長時間労働規制も骨抜きになるおそれがあります。

労働運動側は、格差や長時間労働が政権も取り組まざる得ない政治・社会問題となっている今を、「好機」ととらえ、労働者の深刻な実態を調査・告発し、安倍内閣の改革は不十分であると訴えて、一歩でも二歩でも実効性のある制度になるように立法要求運動を展開しなけばなりません。民法協でも今年の最重要課題として取り組みたいと思いますので、会員の皆様のご協力をお願いします。