民主法律時報

Q:条例案の教員評価制度で教育現場はどうなる?

 Q:このような評価制度は、教育現場にどのような変化をもたらすでしょうか。

A:本条例案は、校長が人事評価を行うことを明記し(19条1項)、校長の評価を尊重して行われる府教委の人事評価が給与・期末手当だけでなく任免にまで反映されなければならない(19条3ないし5項)と定めています。
 この点、地方教育行政法46条は、教員の勤務評定は教育委員会が行うものと定めています。各学校ごとに評価者が異なることにより、評価基準や評価内容の不統一が生じるおそれがあるために、各学校ごとに校長が勤務評定をするのではなく、教育委員会が行うこととされているのです。本条例案では、各学校に設置される「学校協議会」も人事評価に意見を提出することになっていますが、偏った構成になれば恣意的な意見に繋がることにもなります。個人である校長が人事評価の権限を担うことと相俟って、中立・公平な教員の評価制度を担保できない可能生が高くなります。
 しかも、教員の人事評価は、憲法や教育基本法が定める教育理念に基づくのではなく、「授業・生活指導・学校運営等への貢献」を基準に行うものと定められています(条例案19条1項)。つまり、校長が定めた「具体的・定量的な目標」(同8条1項)や「具体的計画」(同2項)の達成への貢献如何が問われることになります。結局のところ、校長の学校運営にどれだけ貢献しているかという組織的な評価が主となり、教育者として教員が校長に対し積極的に意見を述べることも、自主的な活動を行うことも萎縮させる結果を招きます。
 さらに、本条例案は、校長が5段階で人事評価を行うことを定めています(19条、S=5%、A=20%、B=60%、C=10%、D=5%)。そして、2年連続で最下位5%のD評価を受けた者は、注意指導や研修を受けても改善されない場合には「免職または降任」の分限処分が課されることになります(別表3の第1項、28条4項)。校長に徹底した相対評価を求めることは、必ず上位5%と下位5%を定めることを意味します。しかしながら、そもそも全教員の全授業やクラスの運営を詳細に把握していない校長に、そのような評価を委ねることは現実的に可能でしょうか。このような形での相対評価の徹底については、恣意的で不公正な人事評価が懸念されます。
 徹底した相対評価は、教師に対し、他の教師との競争を強いることになります。低い評価を受けないために、クラスの成績等、目に見えて分かる部分の結果を追求することになり、「子どもたちのため」ではなく、「教師の保身のため」という目的が先走りします。クラスの成績を上げるために努力することを否定するわけではありませんが、その前提には、子ども一人一人と向き合って、真に子どもの教育に資するという基本姿勢が必要なはずです。負けたら地獄、2年連続で下位5%に入ったら免職される・・・というような過当な競争を教師に課すことによって、教育現場がより豊かになるとは到底思えません。本条例案に、子どもの視点、教育の視点が抜けていることは明らかだと思われます。

民主法律時報アーカイブ

アーカイブ
PAGE TOP