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解雇の金銭解決制度Q&A

解雇の金銭解決制度について

解雇の金銭解決制度ってなに?

1 解雇の金銭解決制度とは

現在、違法な解雇は無効となるので、雇用関係は終了せずに継続していきます。しかし、解雇の金銭解決制度というのは、違法な解雇の場合に労働者に金銭が支払われることによって労働契約関係が終了するという制度です。

2 解雇の金銭解決制度導入の動き

解雇の金銭解決制度については、2002年と2005年に2度提案され、そのときはいずれも労働者側の反対で頓挫しました。
しかし、2015年に規制改革会議で提案・閣議で了承され、2016年から2017年にかけて厚生労働省の「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」で報告書がまとめられ、現在は厚生労働省の「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」というところで具体的な制度の中身についての議論が行われており、制度の導入ありきで進んでいます。

3 現在の制度案

(1)現在の案では、解雇が行われ、その解雇が無効である場合に、労働者が裁判や労働審判において金銭解決を選択すると、労働者に労働契約解消金請求権が発生し、代わりに雇用関係が終了するという仕組みになっています。

(2)労働契約解消金の水準については、現在の案では、一定の算定式により算出された基準額を基に、解雇の不当性や労働者の帰責性の度合いを勘案して算定する方法が考えられるとされ、勤続年数や給与額、解雇の不当性や労働者の帰責性などを考慮して決めることが想定されています。また労働者保護と予見可能性の観点から一定の上限と下限を設けるとされています。なお、バックペイとの関係では、労働契約解消金とバックペイは併存し、労働契約解消金が支払われ雇用関係が終了するまではバックペイが発生するとされています。

(3)権利の行使については、現在の案では裁判外で行使することができないとされています。したがって、労働局のあっせん手続などにおいてもこの権利を行使することはできないことになります。また、すべての解雇、雇止めが対象となっています。

解雇の金銭解決制度Q&A

【労働者に新たな選択肢を与える?】

Q1
 金銭解決という新たな選択肢ができることは、労働者にとって良いことなのでは?

A1 いいえ、良いことではありません。現在の訴訟や労働審判においても、違法な解雇の事案において、個々の事情に応じてその事案にふさわしい金額の解決金を支払うという和解で解決できます。したがって、労働者の選択肢が増えるというのは誤りです。
解雇の金銭解決制度は,解雇が無効であることを前提とします。解雇した使用者が解雇の無効を最初から認めることは考えにくいところです。解雇の金銭解決制度は,解雇が無効であることに労使双方争いがなく,かつ,労働者も復職を希望しない場合にのみ,利用が考えられますが,このような場合でも,原則3回で終了するとされている労働審判等を利用することができます。むしろ,解雇の金銭解決制度は,違法に解雇しても金さえ払えば解決できるとの安心感を使用者に与えるものであり,労働者側にとって良いことではないでしょう。

【泣き寝入りする労働者を救う?】

Q2 金銭解決制度は、泣き寝入りしてしまう労働者を救うことになるのでは?

A2 いいえ、なりません。金銭解決の権利を行使するためには、訴訟を起こしたり労働審判を申し立てて、解雇が違法であることが認められる必要があります。時間や、コストは現在の制度と変わらず、泣き寝入りしている労働者を救済することにはつながりません。

【地位確認を求めることができるからデメリットは無い?】

Q3 復職を希望する労働者は従来通り地位確認を求めればいいので、特に労働者側にデメリットは無いのでは?

A3 いいえ、大きなデメリットがあります。この制度が導入されると使用者にとっては労働契約解消金の水準によって解雇のコストが予測でき、今よりも解雇しやすくなります。さらには、使用者が「労働契約解消金の基準の6割支払うから退職に応じないか?」というような退職勧奨、退職強要が行われることも考えられます。そして、労働者は裁判などで争う際の様々な負担や敗訴のリスクを考え、これに応じてしまうことも考えられます。使用者にリストラの大きな武器を与えることになります。

【特に今と変わらない?】

Q4 現状でも結局金銭解決することが多いから、特に今と変わらないのでは?

A4 いいえ、大きな影響があります。この制度が導入されると個々の事案の性質にかかわらず労働契約解消金の水準になり、解決金の金額が画一化し、低くなる恐れがあります。

【使用者側に申立権が無いから大丈夫?】

Q5 今検討されている制度では、使用者側に申立権が無いとされているので、労働者にとっても問題無いのでは?

A5 いいえ、問題があります。たしかに現在の案では使用者側には申立権は無いこととされています。しかし、2002年や2005年の提案時にはいずれも使用者に申立権を認める案で提案されていたことなどから今後使用者にも申立権を認めるべきだという動きが起きることも予想されます。そして、一度、解雇の金銭解決制度が定着すれば、違法解雇でもお金をもらって退職するということが当たり前のことになり、使用者側にも申立権を認めるべきという動きに抵抗できなくなる恐れもあります。
また、解雇の金銭解決制度を法律で定めるには、解雇に関する他の制度との理論的な整理が不可欠とされ、立法化に大変な困難が伴うといわれています。しかし、労働者側のみであっても、ひとたび法律を作ってしまえば、「使用者も」というたった一語を付け加えるだけで、使用者側にもいとも簡単に申立権が与えられてしまいます。使用者側に申立権が与えられると、金さえ払えば違法な解雇でもやりたい放題の社会が到来します。「労働者」側のみ申立権を与えるという宣伝に惑わされず、制度自体にしっかり反対する必要があります。

【解雇されなければ関係ない?】

Q6 一般の労働者にとっては、解雇されなければ関係無いので、特に影響は無いのでは?

A6 いいえ、普段の職場での権利行使にも大きな影響があります。解雇の金銭解決制度が定着すれば、違法解雇でもお金をもらって退職するという意識が広がり、雇用が流動化してしまいます。また、使用者側は労働契約解消の水準が定まれば解雇の際のコスト面が予測可能となり、より解雇を行いやすくなります。そうすると労働者が解雇を恐れて萎縮してしまい、今よりもさらに職場での権利行使が難しくなることも予想されます。

【労働組合には関係無い?】

Q7 この制度が導入されても労働組合には特に影響は無いのでは?

A7 いいえ、労働組合にも大きな影響があります。現在の案では、すべての解雇・雇止めが対象とされており、法律で禁止されている労働組合員であることや組合活動を理由とする解雇、性別や妊娠出産を理由とする解雇、公益通報を理由とする解雇などの差別的解雇も対象に含まれます。したがって、使用者側が組合員を狙い撃ちとした解雇を行い、労働契約解消金の水準の金額を支払って解決しようとする事態が生じる恐れもあります。

【解雇規制を緩めるものではない?】

Q8 金銭解決の選択肢を増やしても、解雇規制そのものを緩めることにならないので問題無いのでは?

A8 いいえ、問題があります。もともと民法や労基法には現在のような解雇規制を定めた条文はありませんでした。労働者の闘いのなかで、客観的に合理的な理由がなく社会通念上相当と認められない解雇が無効となり、雇用が継続するというルールが勝ち取られたのです。違法な解雇でもお金を払えば雇用が終了するという解雇の金銭解決制度は、この労働者が勝ち取ったルールを骨抜きにしてしまうものです。

【現状でも復職が難しい?】

Q9 現状でもなかなか復職は難しく結局金銭解決になってしまうので?

A9 そもそも違法な解雇を受けた労働者が職場復帰できなない背景には労働者に就労請求権が認められないことがあります。したがって、解雇の金銭解決制度ではなく、就労請求権を認める(法制化する)ことが真の労働者救済につながります。また、裁判を起こしやすくするための支援制度(リーガルエイド)を充実することが必要です。

【反対のためにできることは?】

Q10 解雇の金銭解決制度に問題があることは分かりましたが、導入に反対するためには具体的にどんなことをすれば良いのでしょうか?

A10 反対の声を挙げましょう!現在、解雇の金銭解決制度については導入ありきで厚生労働省の法技術検討会での議論が行われています。しかし、そもそもこの制度自体が必要ないものですから、導入ありきでお金と時間をかけて検討する必要など無いのです。したがって、「そもそもこんな制度は要らない」「導入ありきで検討する必要は無い」という声を多く挙げ、検討をやめるよう求めていくことが大事です。

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