決議・声明・意見書

声明

国の指示権を拡大する地方自治法改正に反対する会長声明

 政府は2024年3月1日に国の自治体に対する指示権の拡大などを内容とする地方自治法の一部を改正する法律案を国会に提出した。また、同年5月23日に、自民党、公明党、日本維新の会の3党で指示権を発動した閣僚に国会への事後報告を義務づけることを盛り込んだ修正案を衆議院に提出し、同月30日に衆議院本会議で可決された。しかし、本改正案は、本来対等な関係にあるべき国と地方自治体の関係を変容させ自治体の自主性・独立性を奪うものであり、日本国憲法が保障する地方自治の本旨に反する。

 地方自治は、民主主義の基盤であるとともに中央集権の弊害を抑制して人権侵害を防ぐための重要なシステムである。そのため、日本国憲法において独自の章が設けられ、憲法上の制度として厚く保障されている。国と地方自治は本来対等な関係にあり、現在の地方自治法における国の指示権は、自治体の業務のうち国が本来行うべき業務を自治体に委託する「法定受託事務」に限定されている。しかし、本改正案は、指示権を自治体の本来業務である「自治事務」にまで拡大し、さらにこれを行使できる場合を国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が実際に発生した場合のみならず、「発生するおそれがある場合」に拡大している。指示権発動に際して必要とされているのは閣議決定のみで、国会の承認は要件とされておらず、自公維新が提出した修正案も国会への事後報告のみを盛り込むものであり、事前の抑制措置が全く設けられていない。
このような指示権を認めれば、政府が上記おそれがあるなどとして安易に指示権を行使できることになり、国が自治業務に容易に介入できることになり、自治体の自主性・自立性が奪われ、ひいては憲法の定める地方自治の本旨を破壊することにつながるものである。

 政府は、指示権を拡大する理由として大規模災害やコロナ禍などの緊急事態において国と自治体間の調整・連携が不十分だったことを挙げる。しかし、このような場合については、すでに、災害対策基本法や感染症法などの個別法で国の指示権が規定されており、一般法である地方自治法を改正する必要はない。
そもそも、大規模災害やコロナ禍において重要なのは、現場から離れた国の権限を大きくすることではなく現場で対応している自治体の権限を大きくするとともに十分な人員を確保しておくことである。しかるに、地方自治体の人員を大幅に削減し、さらに現場から離れた国の指示権を拡大しようとする政府の対応は上記緊急事態への対応としても全く誤っている。

 本改正案で創設される国の自治体に対する補充的指示権は、現行の有事法制が定める指示権の範囲すら超えた、広範な指示権を認めるものである。また、有事の際はもちろん、国民の安全に重大な影響を及ぼす事態が「発生するおそれがある」と政府が認めれば、指示権を行使できることになる。そのため国は、必要と判断すれば、武力攻撃への防衛措置のために自治体に対して職員の動員を一方的に指示できるなど、自治体への統制を強化することが可能となる。沖縄県は辺野古新基地建設に強く反対し、国による水面埋立工事を承認しないことにより抵抗したが、本改正案により国に補充的指示権が認められれば、同様の事態が生じても自治体には抵抗するすべがなくなる。そのため国は、より強権的に戦争への準備を進めることができるようになり、憲法が掲げる平和主義を事実上侵す危険性が生じうることは明らかである。

 以上のとおり、本改正案は、本来対等な関係にあるべき国と地方自治体の関係を変容させ自治体の自主性・独立性を奪うものであり、地方自治体の本旨に反するとともに、そもそもその立法事実すら欠くものである上、有事の際の自治体に対する強権的な指示権を承認するもので、戦争する国づくりへの第一歩となりうる危険な改正案である。当会はこのような本改正案に強く反対し、廃案を求めるものである。

 

2024年5月31日
民主法律協会
会長 豊川義明

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