労働局の申告による指導を根拠に使用者性と団交応諾義務を認定~ブリヂストンケミテック事件の判断

2011年01月14日

弁護士 村田 浩治

  1. 事件の概要
     本件は、20年にわたる偽装請負職場(発注者はブリヂストンケミテック株式会社(以下「会社」という)。請負会社はトップワーク(以下「請負会社」という))で、2年ないし8年勤続してきた日系ブラジル人労働者らが、個人加盟組合である三重一般労働組合(ユニオンみえ)に加盟し、職場での人権侵害行為や職場の改善要求、会社への直接雇用要求を掲げ、団体交渉を求めたところ、会社が、「雇用主」でないことを理由に、これを拒否した事案である。
     労働者らが就労していた会社の職場環境は劣悪であった。自動車シートの加工業務で室温は極めて高く、二交代勤務(日本人だけ三交代)で、常に残業が予定されており、勤務中はトイレにも行けないという超過密労働であった。
     このような就労環境の中、ある女性労働者が生理のためトイレに行きたいと申し出たが、暫く待つように言われ、結果として衣服が汚れるという事件や、請負会社(トップワーク)による恣意的な解雇事件が起きた。
     これらが発端となって、10名以上もの労働者が組合に加盟し、会社に対して団体交渉を求めることとなったのである。
     この労働委員会への救済申立てについて、三重県労働委員会は、2010年11月25日(10月25日付)、会社への直接雇用を求める交渉事項について、労働者の「雇用の安定について団体交渉に応じなければならない」との命令を発した。
     なお、本件では、このほかに請負会社に対する地位確認訴訟、労働局に対する是正申告も行っている。
  2. 労働委員会の判断

    (1)使用者
     委員会は、労組法7条の使用者は、「労働契約上の使用者に限られるわけではなく、使用者に当たるか否かについては、労働者の団結等を侵害する一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的とする同条の趣旨に即して判断されるべき」であるとした上で、朝日放送事件の部分的使用者概念に則し、「団体交渉申入れ事項ごとに、実質的に見て、会社が、当該事項に係る派遣労働者の基本的な労働条件等に関して、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるかどうかを検討し、これに当たる場合には、その限りにおいて、会社も労組法上の使用者に当たる」とした。
     使用者は、派遣法に規定のある苦情処理制度を設けているから団体交渉に応じる必要はないと主張したが、これについては、「苦情処理制度は労働者個人に苦情処理を申し出る道を開いたものであって、これが、派遣労働者の労働条件等に係る労働組合と派遣先の団体交渉に代替し、労働組合の団体交渉権を制約ないし排除するものであると解することはできない。」として明確に否定した。

    (2)組合員がすでに、職場にいない場合の救済の可否
     団体交渉拒否の救済については、人権侵害を訴えていた女性労働者は、帰国したため、交渉事項としては、4名の解雇事件に絞られた。
     会社側からは、現在、会社において就労する組合員が不存在であることを理由に申立人の適格を欠く旨の主張がされたが、この主張について、委員会は、まず、就労当時の組合員がいる以上、訴えの利益がないとはいえないとした。また、「本件のように、派遣可能期間を越える違法な派遣労働者の受入れ等の事実の発生により、会社は既に直接雇用の申し込みなど雇用の安定を図るための措置を講ずべき立場にあるとして、その措置を交渉事項とする団体交渉については、当該主張が認められる限り、当該組合員が会社で就労しなくなった後においても、なお、未解決、かつ、現在においても会社において対応可能な交渉事項に係るものとして、団体交渉の余地が残されている可能性がある」と判断した。妥当な判断である。また、結果として認めなかったが、ポストノーティスの命令の余地もある以上、組合員が職場にいなくなったとしても、申立の利益はあり、団体応諾義務の判断が不要ということはないとした。
     なお、委員会は、ここでも団体交渉事項ごとに、救済の必要性ないし救済の利益が失われたかどうかを判断することが相当であるとの判断を示した。

    (3)直接雇用要求に対する交渉拒否の不当労働行為性

     偽装請負の就労実態に関して、三重労働局は、ライン毎に派遣受入期間制限を超えていると認定し、期間制限違反のラインの契約中止を指導した。ラインのみに限定した不十分さはあるものの、請負契約が実質派遣であり、派遣期間の制限(派遣法40条の2)違反を認め、その上で、雇用の安定を図るよう指導したのである。ただ、派遣法40条の4違反は認定しなかった。
     本件において、委員会は、労働局の判断と同様、派遣法40条の4に基づく直接雇用申込義務は否定した。しかし、労働局の指導があることを一定の根拠として、直用を議題とする団体交渉に応じる義務を認めた。つまり労働局が指導した「雇用の安定を図る措置は、会社が自ら決定し、処分すべき事項であ」るから、この点については団体交渉応諾義務があると判断したのである。そして、組合員が形式上の雇用主から既に解雇されている場合でも、それ以前から期間制限違反の状態で就労させていたのであって、「雇用の安定を図る措置として、直接雇用そのたの措置をとることは、現在も可能であり、また、会社は、未だ、団体交渉の申入れに応じず、雇用の安定を図るための措置をなんら講じているわけではない以上、救済の必要性ないし救済の利益は失われて」いないとした。

    (4)その余の救済の棄却
     委員会はその他の、職場改善要求については、すでに組合員が職場にいなくなったことを理由に救済の必要性を否定し、ポストノーティスも認めなかった。しかし、雇用の安定を図る措置を求めて交渉している過程で職場に戻る可能性もあることを考えると、派遣先の使用者が団体交渉に応じる義務があると判断したことについてポストノーティスを認め、公的な判断を示す意義はあったといえる。この点で、委員会の判断は、個人加盟組合特有の利益についての考慮を欠いたものであった。

  3. 課題
     以上の通り、委員会の命令は、不十分な点や、個人加盟組合の交渉力を定着させるという点で問題点もあるものの、「雇用の安定をはかる」という抽象的な交渉事項ながら、派遣法違反で就労していた労働者が職場から追われた後であっても、また、派遣法上の明確な直接雇用義務まで認められなくても、団体交渉応諾義務を認めており、その意義は大きい。
     会社は即日、再審査請求を行い舞台は今後中労委へと移る。
     
(弁護団は、村田浩治、四方久寛、三重の出口崇)