声明・アピール・決議
「共謀罪」新設法案に反対し、廃案を求める決議
  1. 共謀罪新設法案の3度目の提出
     「犯罪の国際化及び組織化並びに情報処理の高度化に対処するための刑法等の一部を改正する法律案」が、第163回国会(特別国会)に提出され、164回通常国会(2006年1月20日から6月18日まで)において継続審議された。この法律案は、「国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約」の締結を受ける形で、2003年3月、政府により初めて国会に提出され、その後2度廃案となったにもかかわらず、自民党が圧勝した2005年9月の総選挙後の特別国会に3度目の提出がなされたものである。政府与党は、先の第164回国会において、当初の政府案に若干の修正を加えた「修正」案を提出し、共謀罪新設法案の成立を狙った。

  2. 共謀罪の概要
     この法律案は、重大な犯罪(死刑又は無期若しくは長期4年以上の懲役・禁固が定められている罪)であって、@団体の活動として、当該行為を実行するために組織により行われるもの、又は、A団体の不正権益の獲得等の目的で行われるものの「共謀」行為を処罰する、いわゆる「共謀罪」の新設が盛り込まれている。
     長期4年以上の懲役若しくは禁固に該当する犯罪は、傷害、監禁、窃盗、詐欺、恐喝など刑法の主要な罪もこれに含まれ、特別刑法を含めるとその数は619にものぼる。この法律案が可決されると、刑罰法規の極めて広範囲にわたり「共謀罪」が新設されることとなる。

  3. 共謀罪の問題点
    (1) 共謀罪は刑法の大原則に違反する
     「共謀罪」は、犯罪の「実行の着手」(未遂)にも「予備」にも至らない、「共謀」それ自体を処罰の対象とするものである。ある行為が犯罪として処罰されるためには、法益侵害という結果、もしくは、少なくともその現実的危険性が発生した場合に限るというのが、近代刑法の大原則である。例外的に、一定の重大な法益侵害を伴う罪に関して、「予備」や「陰謀」が処罰の対象とされているにすぎない。この刑法の原則は、国家権力の恣意的な刑罰権の行使を抑制し、国民の自由な行動を保障するために、歴史的に形成されてきた普遍的な原則である。
     にもかかわらず、同法案は、共謀による合意成立後の打合せや電話連絡、犯行手段や逃走準備等のいわゆる「顕示・助長行為」すら必要とせず、合意が成立しただけで処罰対象としてしまうという、諸外国にも例を見ない犯罪類型である。合意だけで犯罪の成立を認めることは、人の「意思」を処罰するに等しく、人の行為のみを処罰の対象とする刑法の「行為主義」の原則に反する結果となる。しかも、その対象とされる犯罪が多数かつ広範囲にわたることからすれば、国家権力による恣意的で不公正な捜査・取締・処罰が行われる可能性が高い。
    (2) 処罰と捜査の対象があらゆる団体の活動に及ぶ(監視社会の到来)
     「共謀罪」の構成要件もあいまい・不明確であり、その主体である組織についても、単に「団体の活動として」と規定するのみである。政党、労働組合、市民団体など、およそ2人以上の人間が協力して行動すれば、国家権力により「団体の活動」として認定される可能性がある。これでは、労働組合や市民団体などの会議や打合せをするだけでも処罰の対象となりかねず、しかも、捜査機関が団体の会議や打合せを立件するために、その捜査として必然的に内偵や盗聴が日常的に行われることとなる。
     また、ひとたび「共謀罪」新設法案が成立してしまうと、犯罪の実行行為も犯罪結果の発生(若しくはその危険性)も不要で、「共謀」が成立しただけで人を処罰することが可能となることから、人の「心の中」で思ったこと、考えたことまでが処罰の対象とされかねない。捜査機関や裁判官の関心も、客観的な行為や結果(もしくは結果発生の危険性)ではなく、人の内心(思想・信条等)と会話の内容に寄せられることになりかねず、客観的な証拠に基づく刑事裁判が行われなくなる可能性がでてくる。

  4. 結語
     共謀罪の新設は、個人の思想・信条・表現の自由・プライバシーへの国家権力による過度の統制を認め、個人の自由な活動を萎縮させる結果となるのみならず、政党、労働組合、市民団体等の団体活動に対する監視と弾圧に利用するため恣意的に運用されかねない。
     われわれは、2006年権利討論集会において共謀罪新設法案に反対し、廃案を求める決議」を採択し、共謀罪新設法案に断固反対し、3度目の廃案に追い込む決意を示した(2006年2月19日)。
     その後、同年3月3日には他の法律家団体とともに共謀罪新設法案反対の集会を開き、また4月26日の大阪弁護士会主催の反対集会、翌27日の同会主催のデモ行進にも積極的に参加した。そのような取り組みもあって、マスコミも法案の問題点を取り上げるようになった。その結果、共謀罪法案は衆議院法務委員会さえ通過させることができず、継続審議に追い込むことができた。
     今後も、政府は、共謀罪新設法案の成立を目指してくると思われるが、われわれは、共謀罪新設法案に断固反対し、3度目の廃案に追い込むために更なる取り組みを行う決意である。

     以上、決議する。

2006年8月26日
                       民主法律協会第51回定期総会
   
 
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