声明・アピール・決議
労基法・派遣法改悪に反対する法律家7団体共同アピール
  1.  2003年3月現在、全国には三百数十万人もの失業者があふれている。
    派遣・パートなどの不安定雇用労働者は年々増え続け、その多くは低労働条件・無権利状態におかれ日々の生活を維持することすら困難なものとなっている。正規従業員たちも、リストラ解雇の危険にさらされ、定昇凍結、ベアゼロ、更には賃金引き下げなどの労働条件改悪を受け入れざるを得ない状況にある。また、長時間労働および労基法に違反するサービス残業の横行は、多くの過労死・過労自殺者を生み出している。
     このような状況の中、本年3月7日、政府は、「労働基準法の一部を改正する法律案」ならびに「職業安定法及び労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律の一部を改正する法律案」を閣議決定し、国会に提出した。
     この労基法・派遣法「改正」案は、内閣に設置された総合規制改革会議の基本方針をうけた労働政策審議会の建議をもとに作成されたものであり、規制緩和の名のもとに労働市場の流動化を押し進め、正規従業員をより安上がりの労働力である不安定雇用労働者に置き換えていくことを目的とするものにほかならない。
     私たちは、労働者から多くの相談を受け、労働裁判に関与することも多い法律家団体として、今回の「改正案」について、いかに述べるような危惧をいだき、共同アピールを行うものである。

  2.  労基法「改正」案は、「使用者は…労働者を解雇することができる。ただし、その解雇が客観的かつ合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定する。しかし、このように使用者の解雇権をまずもって明記することは、憲法27条を直接の根拠として、労働者保護を目的に制定された労働基準法の基本構造に本来的に反するものである。
     厚生労働省は、この規定を確立した判例法理(解雇権濫用法理)を条文化したものであると説明している。しかし、判例法理は、最高裁自身が解説するように、正当な理由がない限り労働者を解雇することはできないとするものであって、解雇の原則自由を認めたうえで例外として濫用にわたる場合に解雇を無効とするものでは決してない。厚生労働省の説明は不正確である。
     また、解雇権をまず明文化し、それが権利濫用により無効となる場合を但書で定めるという法文は、それ自体が一人歩きして、解雇理由が権利濫用に当たらないことを使用者側に主張・立証させるという現在の訴訟実務を変えることになりかねない。こうした現在の訴訟実務が変容すれば、労働者が訴訟により解雇が無効であることを争うことが困難となることは目に見えている。
     さらに、理由のない解雇が横行している現在、解雇権を明文化することは、これに一応の根拠を与えるものと誤解されかねず、専横的解雇が助長されかねない。
     厚生労働省が説明するように、権利濫用による解雇は許されないとする判例法理を明文化するのであるなら、以上のような誤解や雇用不安を払拭するためにも、その法文は、端的に「使用者は、正当な理由のない限り、労働者を解雇してはならない。」とされなくてはならない。

  3.  労基法「改正」案は、現行法が原則1年間(例外3年間)としている有期雇用契約期間を原則3年間(例外5年間)に延長している。これは、1年間の雇用契約期間では、実際には契約を更新することが避けがたく、判例上の解雇権濫用法理の類推適用を受けることが多くなることから(雇用止めの法理)、こうした制限を受けることなく3年ないし5年程度で使い捨てのできる労働者を確保したいという企業側の要請を立法化するものである。
     これにより、労働者は、将来の不安を感じながら、次期の雇用契約の更新とひきかえに使用者側の言いなりとなって働くことが事実上強制されることとなる。他方で労働者は、3年から5年もの間、同一企業に拘束されることとなり、退職・転職の機会を奪われることにもなりかねない。さらに3年ないし5年程度で雇用契約を自由に終了させることができるとすれば、事実上の若年定年制が復活することにもなりかねない。
     加えて、労基法「改正」案は、1998年に多くの労働者の反対を押し切って新設された企画業務型裁量労働制の導入要件を「労使委員会の全員一致」(現行法)から「多数決制」に緩和するなど、その導入要件を緩和している。
     裁量労働制は、実際の労働時間にかかわらず、労使で定めた時間だけ働いたものと見なすというものであり、今回の法改正のねらいは、全国に蔓延している違法なサービス残業を一挙に「合法」化しようとするところにある。
     現行法における裁量労働制の導入要件や対象事業場についての規制は、こうした事態の発生が懸念されたためであるが、「改正」案は、現行法にかろうじて残された歯止めを取り外そうとするものでしかない。裁量労働制が大幅に導入されれば、労働時間規制は事実上野放しとなりかねず、よりいっそうの過労死・自殺者を生み出すこととなる。

  4. 派遣法「改正」案は、許可・届出続きを事業所単位から事業主単位にする、派遣制限期間を1年間から3年間にする、26業務の派遣期間制限を廃止し、「物の製造」業務を派遣対象業務とし、医業への派遣を解禁するなど、よりいっそうの派遣事業の拡大を図っている。
     そもそも、派遣業は、雇用される労働者の地位を著しく不安定なものとするものであることから、原則として禁止されていた。派遣法制定当時に派遣対象業務を臨時的・一時的業務に限定していたことはそうしたことへの配慮であった。今回の派遣法「改正」は、現行の派遣法における歯止めを取り除き、正規従業員を景気の調整弁や企業の業務の都合により自由に切り捨てることのできる派遣労働者に置き換えたいとする企業側の要請に応えようとするものである。また、派遣労働が常態化することは、たんに不安定雇用労働者の拡大を意味するだけではなく、正規従業員の労働条件の引き下げにつながることは必至であり、労働者とその家族の生活に重大な影響を与えることとなる。

  5.  今回の労基法「改正」案は、常用雇用を非常用雇用に代替化させていくという流れを促進させ、契約の更新のために企業に逆らうことのできない労働者を作り出し(有期雇用契約期間の延長)、法律の歯止めなき長時間労働に労働者をかりたて(企画業務型裁量労働制の導入)、少しでも企業に抵抗しようとする労働者については解雇して企業から排除することを推進する(解雇の原則自由化)ものであり、派遣法「改正」案は、そうした条件下でも企業に安上がりな労働力を調達することを可能とするものでしかない。
     今回の労基法・派遣法「改正」案は、労働者とその家族の生活を不安定かつよりいっそうの困難に陥れるものであって、まさに改悪と言わざるをえず、私たちは強く反対せざるをえない。
     私たちは、あるべき解雇規制として労基法に「使用者は正当な理由のない限り労働者を解雇することはできない」という規定を新設することを求めるとともに、労基法「改正」案のうち「有期雇用契約期間の延長」「企画業務型裁量労働制の導入要件の緩和」に関する部分及び派遣法改正案の撤回を求めるものである。

                                           以上
                                 
2003年4月8日
                           大阪社会文化法律センター
 大阪労働者弁護団
自由法曹団大阪支部
青年法律家協会大阪支部
日本労働弁護団大阪支部
民主法律協会
連合大阪法曹団
   
 
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