声明・アピール・決議
アスベスト被害の完全救済を求める決議
  1.  2005年尼崎のクボタの問題でアスベストによる健康被害が大きく報道されたことをきっかけに、アスベスト問題が顕在化した。しかし、世界では1930年頃にはアスベストによる健康被害の危険性の認識があり、遅れてではあるが日本においても1940年頃にアスベストによる健康被害調査、研究が進められていた。
     このように、アスベストによる健康被害、環境汚染は新しい問題ではなく、古くから継続している問題であり、具体的な被害対策をもっと早い時期に採ることが可能であったにもかかわらず、国は放置してきたのである。
  2.  アスベスト被害は、極めて広範にわたっており、またその被害は深刻である。
     たとえば、大阪府の泉南・阪南地域では地場産業として白石綿製品を製造してきた。その製造工場の多くは中小零細企業であり事業主、労働者が一緒になって石綿工場で働いていた。また、下請けをして自宅敷地内で家内工業として機織りをしている人の数も相当数にのぼる。そして、工場内の粉じんは換気によって外に排出され、石綿を取り扱ったことのない住民もその粉じんを吸って生活していたのである。
     このように、アスベスト被害の特徴は、労働者だけでなく、石綿工場や家内工業者宅の周辺地域一帯が被害を受けている点にある。
     現在アスベストによる健康被害を受けている人の多くは高齢者である。被害者は毎日呼吸するのにも苦しい生活を送っており、重病患者であると明日の命もわからない。このような被害者を幅広く、かつ早期に救済しなければ、救済の実効性がない。

  3.  先日成立した「石綿新法」は、「隙間のない救済」を謳い文句に作られた法律にもかかわらず、その救済レベルは著しく低い。
     たとえば、“指定疾患”として定められているのは「中皮腫」「肺がん」のみであり、石綿を原因とする「石綿肺」や「びまん性胸膜肥厚」などは救済対象に含まれていない。また“給付水準”は労災給付と比較して、「通院費」「休業補償」「遺族年金」等の点で著しく低い。
     さらに、健康被害を救済するためには、早期発見・早期治療が必要であるが、この点に対する石綿健康管理手帳制度の創設などの救済策は盛り込まれていない。

  4.  また、アスベストの健康被害が顕在化するのは数十年の潜伏期間を経てからである。現在、健康であっても将来のことはわからない。この問題を解決するには、広範囲・継続的な疫学調査が必要である。

  5.  よって、当協会は、現在の被害者の根本的救済のため、石綿新法の救済範囲と給付水準の改正を求めるとともに、未来の被害者を作り出さないため、アスベスト被害根絶のために徹底した疫学調査の実施と「アスベスト対策基本法」の制定を求める。

2006年2月19日
                       民主法律協会2006年権利討論集会
   
 
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